取材趣旨:企業インタビュー
今回取材をしたマイクロニクス株式会社は、八王子に本社を構え、電気信号のレベルを読み取る装置などを製造している会社だ。業界シェア95%を誇るETCの試験機や、世界で5社しかつくれないハンディタイプのスペクトラムアナライザと呼ばれる装置など、驚きの技術が数多く存在する。
同社の創業者である田仲社長は、スペクトラムアナライザが世の中で主流になる前から着目し、その開発に携わり続けるために独立をしている。今回の取材では、その田仲社長の先見の明や、どんな思いで会社経営を行っているかなどについて伺った。
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マイクロニクス株式会社
代表取締役田仲克彰
現在は省エネ・環境・医療の時代といわれます。
さまざまな産業分野において、これほど社会に受け入れられる技術力が求められたことはかってなかったのではないでしょうか。
マイクロニクスは、環境分析・医療検査・バイオ関連機器・生産機器などの諸分野において、創業以来研究・開発・生産の一環体制を軸に、メカトロ技術センサ技術、コンピュータ技術で諸製品を次々に製品化して参りました。
マイクロニクスでは、現在のニーズはもとよりこれから生じるさまざまなニーズに適確に対応していき、よりよい製品づくりを通じて社会に貢献する一助になることを願いさらに前進いたします。
今後ともよろしくご支援をお願い申しあげます。
目次
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
自由だからこそ生まれる無限の発想
同社の社風について、「一番は『自由』であること」と語る田仲社長。社員一人ひとりが目の前の仕事をただこなすのではなく、自由な発想で必要なことを考えて仕事に取り組んでいるという。
皆が自由に発想できるのは、「効率を追わない」という方針があるからだろう。昨今の世の中では効率化が叫ばれている中、「効率を追うと自由な発想ができない」という考え方が重視されている。
田仲社長自身も、「いつまでにやれ」という指示を現場に出すことはないという。営業から「いつまでにお客様に見せたいんだよね」という声掛けがあることで、開発・生産は協力しようという心持ちになる。トップダウンで効率を追うことをせずとも、お客様の納期に遅れることはないのだ。
効率を追わないからこそ一人ひとりから自由な発想が生まれ、その発想が同社を支えているのだ。
難度の高いマイクロ波を技術の中心に据える
マイクロ波を技術の中心に据えていること。それこそ同社が同社たり得ている一番の要因である。特に、アナログのマイクロ波を扱える会社は日本でも数社しかないというから驚きだ。アナログとデジタルを比較した際、アナログは連続的な数字を取り、デジタルは断続的な数字を取るため、アナログの方が情報量が多くなるためだ。
また、アナログ波の扱いの難しさを証明するエピソードがある。学校の実験などで、乾電池と豆電球を繋いで回路をつくった時のことを思い出してみてほしい。その場合、導線の質や長さ、配線については、精密さを求めずとも電球は点いたはずだ。ところが、アナログ波ではそうはいかない。導線の質や長さ、配線方法に至るまで、緻密に設計をした上で組み立てないと、使い物にならないのだ。
高度な設計および組立技術を持つ同社だからこそ、扱いの困難なアナログ波を使いこなせているに違いない。
よそにないものをつくる
田仲社長に同社の展望について聞くと、「売上は追わない。よそにないものをつくることが大切」という、同社らしい回答があった。言うは易く行うは難しのこの展望を実現するため、田仲社長が従業員に伝えていることが2つある。
1つ目は、今までにやったことがないことを理由に、できないと言わないこと。インターネットが普及し、調べれば何でもわかる時代だからこそ、田仲社長はこれを求めるのだ。田仲社長自身もこれまで数々の困難を乗り越えてきており、例えば海外への輸出も商社を通すことなく自前で行っているという。
2つ目は、他の業務と領域が交わることこそやりなさい、ということ。自分の業務はこれと決めつけているだけでは、視野も狭くなる上、自由な発想も生まれない。
この2つを従業員に伝え続けている同社では、今後も「よそにはないもの」を世に打ち出し続けていくことだろう。
発想やひらめきを大切に
働く上で大切にしていることは何ですか?
環境が変わった時こそ発想やひらめきを大切にすることです。だから私は、月曜日が楽しみなんですよ。土日に休んで、「月曜日が憂鬱」と感じる方もいるかもしれませんが、休日こそ、環境が変わることで様々な発想を思いつくタイミングだと思います。そのため、家の中や車の中にもメモを置いておき、何か思いついた際にはすぐに書き留めています。それは会社の問題を解決するための方法の場合もあれば、新商品開発のアイディアの場合もあります。そういった思いつきやひらめきを記録しておくと、月曜日に出社して実践することが楽しみでしょうがないんです。
今後どんなことに取り組んでいきたいですか?
やはり、「よそにないものをつくる」ということですね。特に1年後は新商品開発が課題になると思います。
新商品開発と言っても、まったく新しいものをつくる場合もあれば、今までにあったものを変化させている場合もあります。当社の場合は後者のケースが多いです。
また、私もまだまだ開発に関わっていますが、どんどん部長たちに先陣を切ってもらいたいですね。生産・営業・開発と3名の部長がいるので、彼らにはなるべく3人で会社のことを決めてくれと伝えています。その方が自由な発想も出ますから。
全社として「よそにないものをつくる」という考え方は今後も大切にし、実現していきたいと思います。
どんな人に入社してもらいたいですか?
一番は向上心のある人ですね。中でも、「人の上に立とう」という向上心ではなく、「自分自身のスキルを上げていこう」という気持ちが大切だと思います。当社では、自由な発想で自分自身で考えることが重要だということはこれまでもお伝えしてきた通りです。だからこそ向上心が大切なんですね。
実際、入社4年目ながら、お客様への納入前研修をすべて取り仕切った社員もいますよ。世の中の状況も踏まえてWEBで開催したにも関わらず、立派に対応してくれたと思います。
自由な環境の中でどんどん向上してもらいたいですし、それを望む人に入社してもらえると嬉しいですね。
世界で5社しかできないハンディのスペアナ
自由な雰囲気が広がるオフィス
若手も一つひとつ考えてものづくりに臨む
こだわり抜いたものづくり

マイクロニクス株式会社 生産事業部 部長 樋口実
今回取材したのは、2013年に入社した樋口さんだ。ものづくりが好きでマイクロニクスへの入社を決めた樋口さんは、田仲社長から直接知識や技術を学び、今では生産事業部のトップを任されている。
自分自身では、お客様に喜んでもらうためにはどうすれば良いかを考え、自分が納得できるまでこだわり抜いたものづくりを行う。部門のメンバーには、同社らしく自由な発想でものづくりに取り組んでもらう。その姿勢から人望も厚い樋口さんに、マイクロニクスの魅力について語ってもらった。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
運命的な出会いに導かれた
樋口さんが同社への入社を決めた理由は、田仲社長との出会いが大きかったという。 元々、大手半導体メーカーに勤務していた樋口さん。ある時、海外勤務の話が出たが、家族と一緒に日本で暮らすことを選んだ。ものづくりに関わる仕事で、かつ、自宅から通える場所。そのような条件で働ける場所を探している時に出会ったのがマイクロニクスだ。 入社後、業界の知識が不足している樋口さんに対して、田仲社長直々に講義を実施し、一から教えてくれたのだという。きっかけは条件面だったかもしれないが、そこで出会った田仲社長に惚れ込んだのだ。 そんな樋口さんだからこそ人望も厚く、どんどん活躍し、入社から7年経った今、生産事業部長という立場で同社を支えている。
徹底的なこだわりを持ったものづくり
仕事においてやりがいを感じる瞬間について、「自分自身が納得できるものをつくりあげた時」と語る樋口さん。お客様のために、こういうふうにしてあげたい!という思いを形にできた時が、何より嬉しいのだという。 同社では測定器そのものの販売はもちろん、その測定器を使うためのシステム構築も行っている。お客様からすると、電気信号を測定したい場合、検査装置そのものが欲しいのではなく、検査装置を使った検査を行いたいのだ。検査を行うには、理論上でシステムを構築するだけでなく、実際に測定した上で微調整も必要になる。それを繰り返して、最終的に自分が納得のいくものができあがった時の達成感が大きいという。そして、そんな樋口さんだからこそ、お客様から感謝されることも多いに違いない。
生涯現役を貫きたい
将来の夢について、「死ぬまで働き続けたい」と語る樋口さんには笑顔が浮かんだ。 田仲社長のエネルギーを近くで感じているうちに、そう考えるようになったという。 小さい頃から大工である祖父に遊んでもらっていた樋口さんにとって、ものづくりはとても身近なものなのだ。「パソコンを自作する程度ですよ」と謙遜する裏に、ものづくりへの熱意と愛情が感じられた。 もはや趣味とも言える大好きなものづくりに携わり、子どもたちが巣立った後も元気に今のような仕事を続ける。そして、自分自身が納得できるものをつくり、お客様にも喜んでもらう。そんな生活を夢見ているのだ。自由な発想でものづくりができる同社は、樋口さんにとって最高の場所であるのだろう。20年後も樋口さんが笑顔でものづくりを行っている姿が目に浮かぶ。
自分が納得のいくまで向き合う
メンバーからの提案は、まずはやらせてみる
田仲社長が剪定する植木が本社を囲む
振り返らずに前へ、前へ
田仲社長はどんな人ですか?
とにかく「すごい」の一言に尽きますね。技術力ももちろんですが、行動力がとても真似できないレベルです。それこそ会社を立ち上げた時もバイタリティーが溢れていたんでしょうし、今でも海外の代理店と自ら契約を結んできたり、わからないことがあれば国の機関に問い合わせて調べたり、立ち止まることを知らない方だと思います。会社の植木の剪定も自分でやられています(笑)。この会社に入るまでそんな方に出会ったことはなかったですが、今ではある意味それが当たり前に感じる部分もあります。だからこそ、会社もこれだけ続いてきたんだろうなと思います。
働く上で大切にしていることは何ですか?
「後ろは振り返らない」ということですかね。もちろん製造を束ねる立場として、不具合などが起これば当然対策は行いますが、気持ちとしては前を見続けています。何か起こってしまったことに対して、ずっとクヨクヨしていると、それがストレスになってまたうまくいかなくなってしまいますから。
「これが起こっていなかったら・・・」と考えるのではなく、起こったことは起こったことで受け止めて、次に何をするかを考える方が大事だなと思って日々行動しています。
マイクロニクスのすごいところを教えてください!
若い人たちがしっかりと考えて仕事をしているところですね。生産事業部だけでなく、技術開発部も営業部も、若い人が自分で考えて、上司や先輩にも食らいつきながら仕事をしています。ただ言われたことをこなすだけでなく、何か改善できないかと考えながら仕事に向き合ってくれていることが、当社として強みにもなっているのかなと感じます。私自身としては、そんな彼らが「こうしたい」と言ってきた時には、まずはやらせてみるということを大切にしています。お客様からも「あんな若いのにすごいですね」とよくお褒めの言葉を頂くんですよ。
担当者からのコメント
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監修企業 担当者
この度は貴重な機会を頂き、ありがとうございました。
取材の中で何よりも驚いたのは、やはりハンディタイプのスペアナという
世界で5社しかつくれない製品をつくられていることです。
田仲社長を筆頭に、樋口部長やみなさま一人ひとりが「自由な発想」で
考え続けているからこそ実現するんだろうなと思います!
掲載企業からのコメント
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マイクロニクス株式会社 からのコメント
取材、ありがとうございました。 これまでも取材やインタビューを受ける機会は多かったですが、 その中でも一番良く書けている内容だと思います。 当社には、みんなが自由に考えて動いてくれるエネルギーがあります。 私も負けじと、まだまだ現役で走り続けていきます。
企業情報
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創業年(設立年)
1985年
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事業内容
1:電子計測器 ・スペクトラムアナライザ・シグナルアナライザ・可変アッテネータ・信号発生器・計測システム 等
2:情報通信機器 ・ETC/DSRC試験システム 等
3:環境関連機器 ・電波暗箱・シールドボックス ・EMC試験システム 等 -
所在地
東京都八王子市小比企町2987-2
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資本金
3,000万円
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従業員数
34名
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沿革
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昭和60年~昭和61年
昭和60年12月
八王子市緑町にて事業を開始、受託開発を始める
昭和61年1月
株式会社として設立
本社:相模原市清新3-10-18
八王子事業所:八王子緑町
昭和61年11月
業務拡張のため、八王子事業所を現在地に移転 -
平成元年~平成15年
平成元年 4月
当社で受託開発した菊水電子工業株式会社のデジタルオシロスコープCOM3000が、昭和63年度のグッドデザイン産業機器部門大賞を受賞
平成2年 3月
新館完成
平成4年 5月
「平成3年度東京都中小企業新製品新技術開発助成金」にてパルス幅アナライザMC2500を開発、自社ブランド商品の第1号として発表
平成5年 5月
「平成4年度東京都中小企業新製品新技術開発助成金」にてピーク値アナライザMP1500を開発、自社ブランド第3号として発表
平成6年 3月
ハイブリッドシステムMHS500シリーズを発売
平成9年 5月
別館完成
平成10年 8月
ハンディ型デジタルオシロスコープMDS202を発売
平成11年 1月
ETC自動試験システムME8500を発売
平成11年 5月
「超小型広帯域RFスペクトラムアナライザの開発」が中小企業総合事業団の「平成10年度課題対応技術研究調査事業」に決定
平成12年 8月
「超小型広帯域RFスペクトラムアナライザの開発」が中小企業総合事業団の「平成12年度課題対応技術研究開発事業」に決定
平成12年 10月
ETCテスタME8800が「東京都ベンチャー技術大賞奨励賞」を受賞
平成13年 10月
汎用型ETCテスタME8800Dを発売
平成14年 3月
ハンディ型3.3GHzスペクトラムアナライザMSA338を発売
平成14年 10月
ハンディ型3.3GHzスペクトラムアナライザMSA338がグッドデザイン賞を受賞
平成15年 7月
東京商工会議所の第1回勇気ある経営大賞優秀賞を受賞 -
平成16年~令和1年
平成16年 8月
小型卓上タイプの恒温恒湿槽MTH861/865を発売
平成17年 6月
イギリス、フランス、ベルギー、イタリア、スウェーデン、オーストリア、スイス、イスラエル、タイ、マレーシアに代理店設立
平成17年 7月
DSRC通信ユニットME8815を発売
平成17年 9月
EMI試験システムMR2300を発売
平成18年 3月
QPSK/ASK対応のETC/DSRC RSUシミュレータME9010と試験システムME9000を発売
平成19年 3月
3タイプの電波暗箱 Taurusシリーズ を発売
平成19年 12月
EMS試験システムMR2350を発売
平成20年 6月
ハンディ型スペクトラムアナライザMSA400シリーズを発売
平成23年 9月
ETC/ITSスポット電界強度システムME9200を発売
平成24年 4月
DSRC車載器テスタME9100を発売
平成25年 5月
ハンディ型シグナルアナライザMSA500シリーズ(5機種)を発売
平成26年 8月
ハンディ型リアルタイムスペクトラムアナライザMSA500シリーズが、東京都トライアル発注認定制度の対象製品に選ばれる
平成27年 5月
ハンドイン電波シールドボックスMY3710を発売
平成29年 8月
RFマトリクススイッチボックスMM6000シリーズを発売
平成30年 5月
DSRC路側システムME9300を発売
令和1年 9月
RF信号発生器MSG703を発売
取材趣旨:企業インタビュー