日本が誇る伝統と挑戦の革新企業

取材趣旨:企業インタビュー

大正7年、第一次世界大戦の影響で米の物価が高騰し、全国で「米騒動」が沸き起こる中、ヱスケー石鹸は産声を上げた。社名の通り、石鹸の開発、製造、販売を軸に、97年という長きに渡り顧客より支持を得てきた企業である。今回お話を伺ったのは、ヱスケー石鹸の四代目社長として指揮を執る倉橋社長、そして御子息であり、後継者である倉橋取締役だ。創業100周年を目前に、次世代のさらなる躍進に向けたプロジェクトが複数進行しているという。これまで受け継がれてきた想い、そして未来を創るための新たな取り組み等、様々なお話を両名にお伺いした。

  • ヱスケー石鹸株式会社

    代表取締役倉橋公二

    ヱスケー石鹸は、1918年創業以来『良品にあらずんば売らず』の精神のもと、環境・安心・安全をテーマに技術を磨いて、最高の石けんをお届けできるよう全社員一致団結し取り組んできました。

    石けんは、きれいにする力に優れた人と地球にやさしい素材です。原材料の組み合わせや製法の工夫により、多種多彩な良い品を創り出すことができます。
    洗濯やキッチンで使う家庭用品、身体に使う化粧品など幅広く活躍しています。また、固型、パウダー、液体などいろいろな形状に加工できます。
    そして、原材料は天然油脂でサステナブル、石けん自体も生分解し、地球にやさしいことも魅力です。

    社会が大きく変わりゆく中、『良品にあらずんば売らず』の精神は不変で、
    これからも石けんで新しい価値を創造し、お届けします。

目次

伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質

社風

誠実、それが社風の源

同社が掲げる基本方針は「誠実」。この言葉は同社に関わる多方面、広範囲の人々に対して向けられる言葉であり、この考え方が、同社の社風を築く上での根幹となっている。1人の人間として誠実であること、製品を購入していただくお客様に対して誠実であることは当然であるが、それだけにとどまらないのが同社。同社では、自社内の部門内や部門間においても「お客様」という意識を持って仕事に取り組んでおり、社員同士においても誠実な対応を実施する文化が根付いている。例えば製造部門を例にとってみると、製造工程において、前工程の社員にとってみれば、次工程の社員は「お客様」にあたる。次工程に携わる社員、つまり同社でいうお客様がより取り組みやすいように仕事を引き継ぐ、それが誠実な対応であり、前工程に携わる社員の責務なのだ。そういった気遣いがあるからこそ、部門内ではもちろん、部門を超えて会社全体に「誠実」という社風が形成されているのだ。

独自性

環境、安心、安全にこだわりを持つ、石鹸の一貫企業

同社は、製品の開発、製造、販売を自社で一貫して担うことができ、そこから世に送り出される製品は、「環境への配慮」、「身体に優しい」という同社の強い信念が注入されたものばかり。開発では技術者が研究に研究を重ねて原料の配合を行い、製造では生産方法に創意工夫を加え続け、販売では製品の素晴らしさや製品に込めた想いを伝えてご購入いただくと同時に、お客様の声をダイレクトに聞くことができることから、製品改良や新たな開発に役立たせることができる。その強みを活かし、同社が現在力を入れているのが、より環境に配慮した企業へと進化するための日本唯一の取り組み。その取り組みとは、飲食店で使用された大量の廃油を活用し、石鹸を作り出す「リサイクルシステム」という手法だ。飲食店から出た廃油は業者によって回収され廃棄されるが、同社はその廃油をリサイクルすることで、環境保全の役割を担っている。こういった取り組みを行うことができる背景には、石鹸の一貫企業であること、さらには変わることのない環境への想いがあるからなのだ。

展望

好循環を繰り返すことで方向性を見出す

「好循環を生み出すことが最も重要」、そう語る倉橋社長。現時点で方針を示すことはナンセンスであり、同社がさらなる成長を遂げるために、目標の達成を繰り返すという好循環を生み出すことが大事であるという。倉橋社長には「やるかやらないか、やるのであればやるためにはどうすればいいのか」という経営哲学がある。現時点で「やらない」という選択肢はなく、「やる」、「やり続ける」という方向性であることには間違いない。「やる」ためには全員が目標に到達したいという姿勢を持つことが重要であり、「やり続ける」ためには3年後の目標に到達、5年後の目標を到達という好循環を生み出す必要がある。その循環を生み出すためには人材の育成が必要であり、そうした循環が起こることで、自ずと方向性が見えてくると倉橋社長は語る。好循環を生み出す人材の育成に向け、社内では後継者である倉橋取締役を中心とした社内プロジェクトが複数走っており、「やり続ける」ために、今以上に自ら考え、自ら行動する会社へと底上げを図っているのだ。

100周年を目前に、次世代の躍進に向けて動き出したヱスケー石鹸

人材育成について教えてください

物事の捉え方、思考回路から育成していくことが大事だと考えています。私は自ら工場長を務めていたという経験もありますし、製造のこと、そして販売のこと、大抵の仕事は頭に入っています。それが背景にあることで、私があれこれ指示を出すと、言われた側は何も考えずに行動してしまう恐れがあります。そうではなく、物事の原理原則を理解した上で行動することが大事であると考えています。そのことを社員に理解してもらいたいとの想いから、日々起こる事象に対する決定を、もちろん報告はしっかり受けますが、若いメンバーで答えを出すようにしています。現在、社内で複数のプロジェクトが行われていますが、まさに物事の捉え方、思考回路を鍛えるには絶好の機会と認識しており、それによって会社の成長スピードも増していると感じます。

あと3年で創業100周年を迎える貴社ですが、この3年間の位置づけを教えてください

当社は創業97年ということで、100周年まであと3年。事業的にも、組織的にもこの3年間は非常に重要になると考えています。事業という観点では、これまで40年という長い年月を、運命共同体として共に成長してきた某有名企業が取引先として存在していますが、今まさに両社で新たな取り組みを実施し、3年間で事業上の新たな太い幹を作っていきたいと考えています。組織的にも次世代へ移行するタイミングに差し掛かってきています。私は社長に就任する際に、10年間は社長を務め上げるということを公言しました。その10年目が翌年です。そういったタイミングであることから、当社がさらに飛躍するための要素が集約されていると同時に、大きな変化の起こる3年間であると考えています。

環境へ配慮したリサイクルシステムについて教えてください

石鹸を作る際には油脂が必要になるのですが、その油脂というのは輸入品であることが多いのです。その油脂を採取するための植物は世界でも減少を見せ始め、このまま採取し続けることは地球の環境にとって良いこととは言えません。「輸入された油脂を使い捨てるのではなく、国内で循環させることができれば」、そう考えたのがリサイクルシステムの誕生のきっかけになります。当社では独自の技術を用いて、飲食店で使用された廃油を回収して油脂を抽出し、石鹸の製造に活用しています。この取り組みには大企業も注目しており、最近では電車の電子広告で紹介されたり、大手外食チェーン店から声がかかるまでに普及しています。

  • 社長自ら石鹸の効果を直伝

  • 映画とのコラボ石鹸

  • 独自のリサイクルシステム

お客様の立場に立って 新しい製品を世の中へ

ヱスケー石鹸株式会社 技術部主任 合田絵美

ヱスケー石鹸は、開発、製造、販売と大きく三つの機能を有する。その中でも合田さんが担うのは、開発分野。新卒で入社して10年目となる現在、技術部の主任として日々お客様の求める製品の開発に注力しているのだ。製品を生み出すための原料を自ら探し出し、その原料を組み合わせ、不備なく製品の生産がしっかりとなされるよう工場と連携を図り、引き継ぐところまでを一貫して担っている。これまで合田さんが生み出した製品は数多く市場に流通しており、この記事を読んでいる方も手に取ったことがあっても不思議ではない。製品誕生の出発点に関わる合田さんに会社について、仕事について話を伺った。

伝統の承継と挑戦の未来を担う社員の思い

入社理由

研究開発を通じて、人の役に立つ仕事を

「研究開発に携わる仕事に就きたかった」、そう話す合田さん。その背景には、人の生活に役立つものを自分で作り、世の中に広めていきたいという強い想いがあった。そういった想いを持つ合田さんは大学時代に所属していたカヌー部において、湖や川を訪れる機会が多く、その中で感じたのは水の汚れ。そのことがきっかけで「水を汚さない」ということに対してアンテナが立ったという。「自分で人の役に立つものを作りたい」、「水を汚さない」、その二つの想いが重なる中で出会ったのが同社。大学のOB名簿を見る中で、たまたま同社で働く先輩の名前が記載してあり、そこから同社のことを調べるようになったという。同社は「環境、安心、安全」というテーマのもと、石鹸には添加物を使わないという特徴を持っている。そんな同社に興味を惹かれた合田さんは同社への入社を決意し、現在では技術部の主任として、当時の想いを具現化しているのだ。

やりがい

誇り高きポリシーで、お客様の喜びを創る

合田さんの一番のやりがいは、お客様からの喜びの声である。「安心して使用することができる」、「今までになく感触が良い」そういった感想をいただくことが多々あるという。その背景には品質に対してこだわり抜く姿勢がある。お客様により一層に喜んでいただくため、合田さんはさらなる品質向上に余念がない。「一番大切なのは、安定的なものを作り、安心して長く使ってもらう製品にすること」そう合田さんは語る。石鹸は使用する期間が人によって異なる。例えば、1ヶ月間で使い切る人もいれば、3ヶ月をかけて使い切る人もいる。その期間によって粘度や泡立ちに差異があってはならないのだ。添加物を加えれば簡単であるが、それは会社の、そして合田さん自身のポリシーに反する。ここが技術者として最も腕の見せどころである。高品質のものを生み出すためには設計段階が最も重要であり、創意工夫を繰り返すという。そういった試行錯誤の末生まれる製品、そしてそれを使っていただき、喜びの声をより多くいただくことが合田さんのやりがいだ。

身近にある、安心を創り続ける

「目標は、赤ちゃんから大人まで、安心して使ってもらえる、身近にあるような製品を一つでも多く作ること」そう笑顔で語る合田さん。同社の製品は親から子供、そして孫へ、三世代で使用しているお客様もいるという。自分自身がそうした製品を作ることはもちろん、技術部全体で一人ひとりが持つ技術を共有していくことが重要であると合田さんは考える。一般的に技術分野においてはその技術が属人的になりやすいが、同社では技術者同士が意見を出し合う新しい開発手法を導入することで、「チーム」で技術と品質を向上していくという試みを実施している。さらには、開発のスピードを上げていくことも目標であると合田さんは言う。お客様の要望に対してより迅速に対応していくために、「〇〇というコンセプトのものが来たら〇〇を使用する」というように、ある程度のパターンを事前に準備しておくことで、さらにスピードを上げていくことが可能なのだ。1人の技術者として、そして主任というチームをまとめる立場として、合田さんの目標に向けたチャレンジは続いていく。

  • 日々安心作りにチャレンジ

  • 合田さんが手掛けた製品

  • 石鹸技術の宝庫

お客様を考えるからこそできる製品

合田さんが大事にしている考え方について教えてください

「お客様の立場に立つ」、この考え方を私自身もそうですし、育成を行っていく際に最も大事にしていることです。私たちが開発する製品の先には必ずお客様がいます。お客様だったらどう感じるのか、それが結局のところ一番大事なわけですから。私たちの仕事は技術的な仕事で、普段お客様と接することがないことから、仕事をする際はどうしても今までよりも良い製品や新しい製品作りに目がいってしまいます。その中で、油断をすれば慣れが生じてくることも懸念されます。技術的なことに目を向けることももちろん大事なことですが、第一に考えるのはお客様がどう感じるか、お客様がどんな製品を求めているのか、それを私は大事にしていきたいと考えています。

合田さんが感じる、貴社の良いところを教えてください

会社の行動方針にもありますが「誠実」というのが一番良いところだと感じます。特に感じますのが、当社は可能な限りどんな成分でどういう処方を行っているのか、情報をお客様に対して提供していきます。私の先輩に化粧品会社から当社へ転職して来た方がいるのですが、「一般的な会社では絶対にありえないことだ」と話していたこともありましたね。それだけ当社は自社の製品に誇りを持っていますし、そういった情報開示をすることで、仕事に対する責任感も増します。これは理念に沿った行動ですし、「環境、安心、安全」な製品を提供するため、 原料選定や処方にこだわり、それを貫いている。これが当社における「誠実」だと感じます。

製品開発で印象に残っているエピソードを教えてください

当社の売れ筋商品である石鹸のリニューアルを行った時のことが印象に残っています。リニューアル前は粉状の石鹸だったのですが、「粉状であるが故にむせてしまう」という声をお客様よりいただきました。改良を実行するにあたり、膨大な時間も要しましたし、予想だにしない出来事がたくさん起こりました。この商品は多くのお客様から支持を受けている製品ということもあり、リニューアルに際して、開発が完了した段階で、大量生産をする必要がありました。重量にして数トンという大量生産を実施する中で、工場のライン上でうまく流れないというトラブルも発生しましたが、失敗を繰り返す中でも諦めずに工場と連携を行い、生産が実現された時には、何事にも代え難い達成感を味わうことができました。

担当者からのコメント

  • 監修企業 担当者

    倉橋社長の経営哲学を源に放たれる言葉は、柔らかくも芯を突く言葉ばかりで感銘を受けました。 特に印象に残ったことは、向こう3年間が肝であるとの考えから、事前に周到な準備を施し、 盤石の体制を敷いていらっしゃるということです。事業という観点からは新たな収益の幹作りに従事、 組織という観点においては「誠実」という基本方針を掲げ、全社を巻き込むプロジェクトを実行し、 次世代の育成にも尽力していらっしゃいます。
    創業100周年を一つの節目として大躍進を遂げることは間違いないと感じました。

掲載企業からのコメント

  • ヱスケー石鹸株式会社 からのコメント

    今回このようなに当社についてお話したことで改めて見直すきっかけとなりました。 そして、アイアルマーズ様と一緒に当社の未来をより良くしていくことになり、大変貴社には期待している共に、今後が楽しみです。

企業情報

  • 創業年(設立年)

    1918年

  • 事業内容

    油脂製品および化学製品の製造販売、化粧品の製造販売、不動産管理

  • 所在地

    東京都北区東十条1丁目19番10号

  • 資本金

    4,500万円

  • 従業員数

    85名(パート含め)

  • 会社URL

    https://www.sksoap.co.jp/

沿革

  • 1918年~1998年

    1918年
    倉橋三平商会を設立。東京都北区に工場を設立して、固形石けんが主流の当時に粉石けんの製造を開始。
    粉石けん製造工場としては日本有数の古い工場である。

    1928年
    製造方法と原料精製法の専売特許2種を有し、当時画期的な粉石けんの製造販売を全国的に展開する。

    1930年
    不慮の火災で工場設備の一切を焼失。

    1932年
    内務大臣より模範工場として表彰される。

    1940年
    米穀より食用油を精製し、石けん原料を得る独創的油脂装置を案出する。

    1948年
    倉橋三平商会をヱスケー油脂工場株式会社と改称する。
    代表取締役 倉橋富治、就任する。

    1954年
    ヱスケー石鹸株式会社を設立する。

    1966年
    倉橋富治、藍綬褒章受賞する。

    1969年
    埼玉県川口市に新工場竣工する。ヱスケー油脂工場株式会社、ヱスケー石鹸株式会社両社合併しヱスケー石鹸株式会社とする。

    1975年
    取締役会長 倉橋富治。代表取締役社長 倉橋一郎、就任する。

    1983年
    ハミガキ工場を竣工する。石けんハミガキの販売を開始する。

    1986年
    新倉庫を竣工する。新しくデリバリーシステムを開始する。

    1989年
    高密度石けんを始めとして、新製品を続々発売する。

    1998年
    固形石鹸工場を竣工する。化粧品原料用スプレードライヤーを新設する。

  • 2002年~2012年

    2002年
    リサイクル石けんで困難だった化粧品グレードの製品を受託製造する。

    2006年
    取締役会長 倉橋一郎。代表取締役 倉橋公二、就任する。
    うるおい、しっとり、すっきり、オーラルケアシリーズを発売する。

    2007年
    業務用廃食用油リサイクル石けんシリーズを発売する。ホテル等で採用される。

    2008年
    東京都北区の創業地に本社を移転する。

    2011年
    環境省のエコアクション21を認証取得する。

    2012年
    廃食用油リサイクル石けんシリーズでエコマークを取得する。

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