取材趣旨:企業インタビュー
「コア技術として育み続けてきた『運ぶ技術』と『回す技術』で世界中の顧客に価値のある商品を供給し続けることに全力を尽くす」会社の存在意義としてそれを掲げるのはボールベアーとターンテーブルの製造で業界トップを走る井口機工製作所。今回取材を行ったのは、かつて大手メーカーにてバイクの設計を行い、2022年より井口機工製作所にて専務取締役として就任した井口貴正専務である。井口専務は就任から今に至る約2年間で同社を大きく変革させている。井口専務がその第一歩として従業員に示したのは、会社で行っているのは「ものづくり」ではなく、お客様を喜ばせる「ことづくり」であるということ。そんな「ことづくり」で、圧倒的な技術力と品質から信頼を勝ち取る井口機工製作所の変革の道程と、これからの未来について話を伺った。
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株式会社井口機工製作所
専務取締役井口貴正
昭和30年の創業以来、蓄積してきた独自の技術を応用し、特殊ベアリング、特殊車輪の製造開発メーカーとして確かな地歩を築きあげてきました。この高い製品技術力と、若い社員が持つ自由な発想力を融合させ、未来へと進んでいきます。
目次
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
「運ぶ」と「回す」で社会に貢献する
入社後、同社が掲げる理念について全従業員が理解するよう努めたと語る井口専務。”井口機工製作所は何をする会社か?”という問いに、従業員は「ターンテーブルとボールベアーを売る会社」という捉え方をしていた。しかし、この会社は「運ぶ技術と回す技術で“世界中のお客様のニーズに応え社会に貢献する会社”ではないか」と井口専務は問いかけたそうだ。このような方針を定め、商品開発に関しても「何でもやる」のではなく、お客様が「感動、精密、革新、快適、環境」のいずれかに困っているのであればその課題解決に沿った開発をしていこうと、徹底的に社会貢献を追求する井口専務。そんな同社の経営ビジョンは、「グローバルニッチNo.1」。国内市場に留まらず積極的に海外市場へも進出しており、アメリカ支店があるほか、タイや韓国に工場も構えている。そんな同社が定めた行動指針は、井口専務が大切にしている言葉を取り入れているそうだ。お話を聞く中で、ものづくりを通じて社会に貢献する同社の姿勢が垣間見られた。
他ではつくれない技術力
ものづくりではなく「ことづくり」を行っていくと決めた井口機工製作所。井口専務が入社から約2年間で見えてきたのは、お客様にとって最高の商品を提供するための「全体パッケージング力の強化」の必要性だ。井口専務の就任前は、特殊な対応が必要な状況でも、実績の中で自分たちの守備範囲を決めてしまい、対応内容に限界があったという。しかし、現在では「今までの殻に囚われることなく、『社会貢献』に対して『回す』『運ぶ』のリーディングカンパニーであるために、『ありたき姿』に対して我々がすべきことを前程に対応している」と語る。同社がその役を担うことでユーザーや商社からも信頼を勝ち取ってきたのだ。井口専務は、「今一度世界から信頼される『日本のものづくり』に井口機工が貢献できる企業であることが重要である」と述べたほか、この考えを従業員にも伝えていきたいとも語っていた。このように高い品質と技術力で製品をつくっていくことで、より困難な課題の解決を目指し、他社には真似できない独自性を確立しているのだ。
マインド変化で売上に繋げる
事業改革を行っている現在、従業員数に対して売上は上がっていると話す井口専務。現状は今の人数をキープし、体制を盤石なものにしたいという。そこでカギとなってくるのは中間層の育成のようだ。今は難しい案件には井口専務が自ら対応しているが、今後は管理職の能力を上げていきたいと考えている。魅力的で部下から尊敬されるような管理職に成長させ、仕事を引き継いでいきたいとの展望を語った。そのために、今年は売上や販売管理費のバランスを従業員に理解してもらうという学びの年にしたいとのこと。井口専務は同社の状況について「今は変革期なので、良い意味で循環させて、良い人を採って業績回復させ、セカンドフェーズで若手の採用に移りたいです」と見ている。まずは基盤構築として変革を進めつつ、良いサイクルで回し、業績を伸ばしていくことを目指しているという。人材育成に力を入れ、成長を続ける井口機工製作所の今後から目が離せない。
改革の道程とその志
ことづくりへの志を教えてください。
お客様が喜ばないことはしない、というお客様に対して想いが強い会社を目指していきたいと考えています。難しいソリューションこそ井口機工製作所がやり、お客様から「すごいね」と言ってもらえるようになりたいです。また、それは参入障壁にもなりますし、独自の優位性を確立することにも繋がります。さらに、万が一設計エラーで問い合わせが来た場合も再発防止に真摯に対応し、決してうやむやにはしません。そのようなオープンにする姿勢でお客様からの信頼度も上がりました。今後は特許やISOの取得を目指し、感動を生む商品開発に積極的に取り組んでいきたいと思っています。
今取り組んでいる会社の改革について教えてください。
今は仕組みとルールを変えて会社を良くしている変革期の真っ只中ですね。私が入社してから管理職は全員マネジメント研修を行っています。問題から目をそらさず、自然と解決のために頭と体が動く、自主自律の組織にしていきたいです。従業員も皆変革期であることを分かっているので、「頑張っていこう」という流れになっています。また、勤怠も紙のタイムカードでしたが、一気に電子化して全て変えました。このように、「非創造業務」の人作業は削減し続け、そして「創造業務」の時間を捻出し続ける企業風土づくりを推し進めたいと思っています。「創造業務」の捻出は、商品開発=お客様の喜びの拡大へ繋がり、最終的には従業員の給与に繋がっていきます。高サイクルな開発循環システムが企業に趨勢されるように、改革を進めています。
営業スタイルの変化について教えてください。
これまでは、お客様からの困り事は聞いていても、実際に利用する人のペルソナがあいまいなため売れない、というケースがありました。それは商品開発の基礎である、「誰に、何を、いくらで、いつまでに、どうやって」という5原則に則った目的意識が不足していたことが原因です。その基礎を固めたほか、現在はエンドユーザーに直接会いに行って、課題を聞いてくるようにしています。そこで聞いた情報を僕のところに集めて、5原則を明確にし、最適なQCDの提案を実施しています。また、営業において、製造の営業であることを自覚させ、技術営業としてのスキルを向上させるべく、社内での勉強会の開催や設計仕様構築への同席など、教育にも力を入れています。
展示会にてボードで掲げた 「運ぶ」と「回す」の存在意義
ターンテーブルの中に ターンテーブルがある ディスプレイ用特型製品
閑静な住宅街に佇む 東京都練馬区の本社

株式会社井口機工製作所 営業部 海外営業課 課長 ジョン ニロシャン
製品でお客様の“困りごと”の解決を目指す井口機工製作所。そんな同社で海外営業課の課長を務めるのは、約9年前に入社したジョンニロシャン課長である。ジョン課長は入社以来、海外を軸に国内でも営業活動を幅広く手掛けている。現在は井口専務と共に経営企画にも携わり、会社の方向性に合わせて、新しい営業スタイルの確立に努めている。従来の「もの売り」から「ソリューション提供」への転換を図り、特に静岡と群馬の国内地域や海外市場において、顧客の課題を解決する提案型営業を推進している。そんなジョン課長に同社で働くことのやりがいや、今後の夢、井口機工製作所の魅力について伺った。
日本のものづくりへの憧れから挑戦へ
大学卒業後、日本で10年間教師として働いていたジョン課長が井口機工製作所に入社を決めた理由は、日本の製造業に対する強い興味と尊敬にあった。教師時代にはインターナショナルスクールで算数や社会を教えていたが、日本は職人の国であり、製造業が重要な役割を果たしている国というイメージを持って育った。自動車業界や家電製品など、日本製品の優れた品質に魅力を感じ、「日本の製造業はすごいな」という思いから、その世界に飛び込みたいと考えるようになったそうだ。そんな時に、ご縁から井口機工製作所との出会いがあり、特に外国人人材受け入れに対してオープンであったことも入社の大きな決め手となった。製造業での経験はジョン課長にとって非常に楽しく、日本のものづくりの素晴らしさを改めて感じる日々となっている。そして海外の職人たちとのやり取りを通じて、自分がその一部に貢献できることに誇りを持っているのだと語る。
お客様の困りごとをワンストップで解決
同社にてジョン課長が最もやりがいを感じるのは、お客様からの嬉しいリアクションで困りごとを解決できたと評価された瞬間だそうだ。井口機工製作所は設計・製造・設置までワンストップでできることが強みの一つとして挙げられるため、営業として同行することで直接お客様のソリューションへの反応も知ることができるのだという。また、ジョン課長自身も入社後に工場勤務を経験しており、溶接やターンテーブルに関しての製造・設置の勉強をしている。そのため総合的な技術に関しての説明を自身で行える技術営業になったことも喜びのバックグラウンドである。こうした努力と成果がお客様の満足と喜びに繋がり、ジョン課長のやりがいとなっているのである。現在は技術営業のスキルを高めつつ、会社全体のサービスレベル向上に努めており、これからも多くの顧客に対してソリューションを提供し続けていくことが期待される。
世界各地へ技術と想いを届ける
高い品質と精密な技術力でお客様の課題解決を掲げる井口機工製作所。そんな同社で、会社の技術を世界各地に広げることが夢だとジョン課長は語る。現在は国内での販売がメインとなっているが、海外市場に進出することで売上を倍増させる可能性を感じている。「ターンテーブルは回すだけ」と思われがちだが、溶接の順番や製造工程に深いノウハウがあり、一体型で製作することで高い精度と品質を保っている。このように同社の「運ぶ・回す」という技術力は海外でも多くの顧客のニーズに応えることができ、重荷重や精密な動作が求められる場面で他社を凌駕する強みがある。ジョン課長の夢は、この技術を活かして海外市場でも顧客の悩みを解決し、ニーズに応える会社に成長させることだそうだ。さらに、ジョン課長は井口専務のサポートをしながら、下の世代を引っ張っていける存在になりたいと考えている。トップダウンで動く会社から、社員一人ひとりの主体性を育む組織に成長させ、技術と情熱を世界に広げることを夢見ている。
海外拠点の一つである タイの第一工場
品質を落とすことなく 生産性を向上させる自動溶接機
全てをワンストップで完結できる 生産設備
お客様目線で考えることづくり
井口専務はどんな方ですか?
専務は技術力と行動力があり、変革を推進するカリスマ性もある方です。しかし、そのカリスマ性だけではなく、専務自身が持つ経験や技術力、想像力が本当に素晴らしいと感じるため、そこから会社はさらに良くなっていくだろうと確信しています。実際、専務のリーダーシップが引き金となって設計や製造、営業といった各部署で変革が進んでおり、会社全体が前に進んでいることを実感しています。また、会社の方針についても私が理想としている、ソリューション重視のビジョンと一致しているため、一緒に会社を変えていける存在になり、専務をサポートしていきたいと考えています。
今後どのような会社を目指しますか?
この2年で問題点が明確になり、各部署で進化を遂げています。そこで今後の発展には部品売りから、ソリューション提供へのシフトチェンジが必要だと思っています。単に部品を売るのではなく、顧客の問題を解決する「こと」を提供することが求められています。例えば、井口専務が設計部隊を変えたことで強みが生まれ、営業もソリューションに目を向けるようになりました。そのためには、技術力だけでなく、その価値を伝えるためのステップが必要です。また、国内外で適正な販売チャネルを構築し、特に海外では現地生産のQCD(品質・コスト・納期)を整えることが課題です。現在はまだ日本でつくってから輸出することが多いため、海外売上を伸ばすために現地での生産体制を強化していきたいと思います。
お客様にとって、御社の魅力はどんなところだと思いますか?
井口機工製作所の魅力は、その対応力にあると思います。お客様の困りごとを諦めずに解決する姿勢が、大きな魅力となっていると思います。他にも同じ対応力を持つ会社はあるかもしれませんが、「Motion×Rotation」のことづくり分野で対応できるのは井口機工製作所だけが持つ強みです。例えば、狭い駐車場でターンテーブルを使うことで事故や時間のロスを減らせます。しかし、もしかするとそれが動く30秒の間でも楽しませたり楽に操作できることはないか、ユーザー目線で考えることで製品自体も変わってきます。このような、お客様の問題を解決することを第一に考える志が、弊社の製品をより良くし、マーケットへの対応力を高めていけると考えています。
担当者からのコメント
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監修企業 担当者
この度は、取材にご協力いただき誠にありがとうございました。高い品質と技術力を武器に、新たな体制を強化している井口機工製作所様のお話は非常に興味深く、終始聞き入ってしまいました。運ぶと回すでお客様の喜びを追求するという志を掲げる井口機工製作所様の今後の活躍と変革に注目して参ります。
掲載企業からのコメント
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株式会社井口機工製作所 からのコメント
この度は取材ありがとうございました。取材の中で、これまでの組織改革や取り組みを振り返ることができました。取材の中でお話したことを軸に、今後もグローバルニッチNo.1を掲げお客様にとって最高のソリューションを提供したいと思っています。この取材をきっかけに弊社に関心を持っていただければ幸いです。
企業情報
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創業年(設立年)
1955年
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事業内容
産業機械器具卸売業、玉軸受・ころ軸受製造業
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所在地
東京都練馬区南大泉1-20-7
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資本金
1億円
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従業員数
45名
- 会社URL
沿革
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昭和30年~昭和43年
昭和30年
精密部品加工を目的とし、個人創業。
昭和35年
(有)井口精機製作所を設立。精密部品加工の傍ら運搬荷役の省力化装置に着目。運搬荷役管理の省力化を目標に研究を重ねる。
昭和38年
地道な研究により、経済的で便利なボールベアーを完成。同年実用新案を取得し、商標ISBと名づけ基礎を定める。
昭和39年
実用新案の原理を応用し、特殊車輪を開発。工場、駐車場等のターンテーブル設計・製造・販売を開始。
昭和40年
モーターショーにて、国産メーカー各社の展示用ターンテーブルを製作。
昭和41年
需要の増大に応え、東京都府中市に製缶工場を新設。
昭和43年
株式会社井口機工製作所を設立。併せて販売部門の強化を図る。 -
昭和45年~平成13年
昭和45年
新製品IS、IK及びIBイグチベアー(自由方向)重量用、軽量用を開発、製造販売を開始。
昭和46年
ISB特殊車輪については特に日本国有鉄道(車輌機関庫)の指定製品となる。
昭和47年
新製品開発や生産・販売などの躍進に伴い、需要に対応できる態勢を取るため、練馬工場を新設。
昭和49年
振動防止機(ヴァイレス)の開発製造に着手し、据付まで一切を行う。
昭和51年
NC旋盤及びマシニングセンターを導入し、生産の省力化、品質向上を一段と高める。
昭和57年
生産拡大に伴い練馬工場を増設。
昭和93年
ロボットメーカーとの共同開発によりロボット積載型ターンテーブル製造を開始。
昭和62年
東京モーターショーにて、米国、欧州大手メーカーのターンテーブルを製作。
平成6年
駐車場設備(ターンテーブル)において、建設大臣認定を取得。
平成8年
販売エリア拡大のため、大阪営業所を開設。
平成10年
エアボールリフタを発売。
平成13年
FPD・半導体業界の需要に対応すべくクリーンルーム向けISB製品の開発に着手。 -
平成14年~平成21年
平成14年
国内LCDメーカー量産ラインに、クリーンルーム向けイグチベアーが正式採用される。
LCD/PDP International 2002にて、クリーンルーム向けISCイグチベアー・ISR-Cエアボールリフタ・ILS位置決めステージ発表。
平成16年
韓国 ソウルオフィス開設。
台湾 台湾オフィス開設。
前工程のLCD処理装置メーカーの量産機に正式採用され、本格的にオーダーメイド方式のISCイグチベアーを生産開始する。
大阪営業所を大阪支店へ昇格。
第2回「モノづくり部品大賞」受賞。
平成17年
韓国 現地法人 ISB KOREA CO., LTD. 設立。
平成18年
新府中工場完成。
新練馬工場完成。
ISB KOREA CO., LTD. 移転。
平成20年
名古屋オフィス開設。
平成21年
新本社ビル完成。
第7回「勇気ある経営大賞優秀賞」受賞。
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平成22年~令和4年
平成22年
府中工場に大型レーザー加工機導入。
平成23年
福岡オフィス開設。
名古屋オフィス移転に伴い、名古屋支店へ昇格。
平成24年
ISB KOREA 工場新設。
平成25年
タイ 現地法人ISB(Thailand)CO., LTD. 設立。
平成28年
タイ法人移転、工場新設、IGUCHI(Thailand) CO., LTD. に変更。
アメリカ サンディエゴ営業オフィス開設。
平成29年
茨城工場完成(敷地面積 約10,000m²)。
韓国 ターンテーブル工場 完成。
アメリカ営業オフィス移転。
茨城工場に大型レーザー加工機移設。
平成30年
府中工場 自動溶接システム導入。
BtoC商品の開発及び販売開始。
令和2年
茨城工場増設(第2工場稼働)。
茨城工場に自動溶接システム移設。
令和3年
AIRCOM 社 日本指定代理店契約。
令和4年
福岡オフィス移転に伴い、九州支店へ昇格。
取材趣旨:企業インタビュー