取材趣旨:企業インタビュー
埼玉県白岡市でねじ加工に特化したタップとダイスの製造に高い専門性をもつモノづくり企業がある。それが株式会社田野井製作所だ。同社は1923年に創業し、以来97年の間タップとダイスの製造を行ってきた。その中で培ってきた独自のノウハウを蓄積しながら常に技術を磨き続けてきた。その長年積み重ねてきたノウハウと技術力を有する同社は“ドクターセールス”という営業手法を強みにお客様が抱えるあらゆる問題を解決する。5代目である田野井優美社長は地元白岡で「やり手経営者」と評されるほどの敏腕経営者。幼少期から男兄弟に囲まれて育ち、学生時代には海外留学を経験するなど明るく、誰からも好かれる性格だ。そんな田野井社長のもとには自然と人が集まり強いチームが生まれている。今回は「人づくり」をキーワードに同社の魅力を伺った。
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株式会社田野井製作所
代表取締役社長田野井優美
社員一人ひとりがかけがえのない存在です。世の中には何百万社とある中で田野井製作所に集まり、共に仕事をしていることに大きなご縁を感じます。一説によると私たちの誕生には父母、祖父母と10代遡っても、2000人以上のご先祖様が存在しているそうです。その中には戦争や災害などさまざまな困難がありましたが、現代に生まれ、田野井製作所で出会えたことは私たちの誇りです。
目次
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
明るく元気で素直な社員が集う「小さくてもキラッと光る会社」
「明るく元気で素直な社員が多く、楽しい雰囲気がある」と語る田野井社長。「小さくてもキラッと光る会社」の合言葉の下、仕事を楽しむ社員が多く存在する。そんな同社には、社員のコミュニケーションを活性化させるための特徴的な仕掛けがある。その一つとして脳神経科学を元にしてつくられた「エマジェネティックス®(EG)プロファイル(以下EGプロファイル)」分析結果を社員一人ひとりの名札に記載している。社員一人ひとりの思考や行動の特性を見える化することによって、その人に合わせたコミュニケーションを取り合うことができ、相互理解を深めることが可能になる。また、田野井社長はEGプロファイルの社内研修を行える資格を有しており、社内に深く浸透している。その他にもバーベキューやボウリング大会などの社内イベントを通じて、社員同士の絆を深めている同社。このような仕掛けを通じて、「小さくてもキラッと光る会社」の合言葉の下に社員が仕事を楽しめる環境をつくり出す。
”ドクターセールス”でお客様の問題を解決する
“ドクターセールス”こそ同社の独自性だ。創業から97年、タップとダイス製造のプロフェッショナルとして、高い専門性を育んできた同社。そんな同社だからこそ提供できる付加価値が、”ドクターセールス”ある。大手企業などの規模の大きい会社をデパート的存在と例えるなら、同社は専門店であり、同社が展開する“ドクターセールス”はお客様と一緒に問題解決に取り組むことで、まるで医師が患者に対し、診断・治療を行うようにお客様の問題を的確に捉え、解決することができる。そのためにも的確な問題把握と高い技術力が必要だ。同社は通常の製品ラインナップの他に、各顧客に合わせた独自の製品ラインナップを充実させている。創業から長い歴史を積み重ね、“ドクターセールス”を可能にしてきた同社は的確にお客様の問題を解決し続ける。これは誰にもマネできない田野井製作所の強みである。
「モノづくりを通じた、人づくり」を
「モノづくりを通じて、人づくりを行う」田野井社長が最も大切にする考えに同社の未来が描かれている。「今後はタップとダイス製造だけでなく、幹部社員を中心に社員一丸となり、さまざまことにチャレンジしていきたい」と田野井社長は全社員を巻き込み、更なる会社の成長を実現させる。「自分の考えや価値観を共有できる幹部が育ってきたのは心強い」と語るように経営計画書の作成や、評価制度の構築を手掛ける幹部社員たちに対し、絶大な信頼を寄せる。今後は幹部社員を中心に全社員が成長し、一丸となることで会社をより進化させていくことを望む。「モノづくりを通じて、人づくりを行う」をモットーに、来る100周年に向けて田野井製作所は更なる成長を遂げていくだろう。
来る100周年に向け、走り出す田野井製作所
田野井社長にとって社員はどんな存在ですか。
社員一人ひとりがかけがえのない存在です。世の中には何百万社とある中で田野井製作所に集まり、共に仕事をしていることに大きなご縁を感じます。一説によると私たちの誕生には父母、祖父母と10代遡っても、2000人以上のご先祖様が存在しているそうです。その中には戦争や災害などさまざまな困難がありましたが、現代に生まれ、田野井製作所で出会えたことは私たちの誇りです。そのため、私たちはひとつのチームになり、仕事に取り組む必要があると思います。人の性格は十人十色で個性があり、それぞれの役割があります。私の役割は社長なので、社員一人ひとりがキラッと輝ける会社をつくっていきたいと思います!
田野井製作所はどんな人財を求めていますか。
当社は明るく、元気で、素直な人財を求めています。
特に素直さが一番大事な素質になります。仕事を覚えていく上で、素直な人は吸収が早く、あっという間に成長していけます。逆に素直さがない人は成長が遅く、自分の思い通りにいかないと仕事を辞めてしまうこともあります。最初からなんでもできる人はいません。上司や先輩が教えてくれたことに対して、素直に「はい!」と応えることができる人は成長するし、人から愛されます。また、当社には素直な社員が多く在籍してますので、きっとすぐに打ち解けられると思います。私はそんな社員を高く評価しています。
4人兄妹の中でなぜ田野井社長が社長になったのか教えてください。
「4人揃ってやっと一人前」と兄妹で話すことがあります。私は社長を務めていますが、長男は技術、次男は製造、三男は営業を引っ張るリーダーとしてそれぞれの役割を全うし、適材適所で田野井製作所のために尽力しています。その基盤には母の願いでもあった「4兄妹が全員仲良くいること」があると思います。母は兄妹全員が同じ会社で働くことでわだかまりが生まれることを恐れていたのでしょうね。以前、4兄妹が食事の席で「兄妹の中で誰が社長を務めるか」という話をしたときに、全員が私を指名してくれました。当時はふざけて選ばれたと思っていましたが、2013年に私が社長に就任。以来7年間、4兄妹がそれぞれの役割を全うしています。これからも母の言葉通り、4兄妹が全員仲良く働いていきたいです。
高い品質を誇る田野井製作所のタップ
社員とのコミュニケーションを大事にする 田野井社長
エマジェネティックス®(EG)プロファイルを 活用し、社内コミュニケーションを活発にする
”田野井”イズムを 体現する若きリーダー

株式会社田野井製作所 経営管理部 部長 岩佐啓介
田野井社長とともに「人づくり」の土壌を整備する役割を担う人財がいる。それが岩佐さんだ。中途入社から7年のキャリアを持つ岩佐さんはシステムエンジニアとしてシステム改善に努めながら、経営管理部の部長として、田野井社長のサポートをはじめ会社の基盤を築く役割を担っている。”人のためにできること”を追求し続ける岩佐さんは日々同社で働く社員のためにシステム改善や会社の業務に努める。また、採用担当者としての一面を持ち、年間を通して多くの学生と向き合う。今回は幅広い業務を任されている岩佐さんに田野井製作所について伺った。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
ワークライフバランスを充実させ、”仕事を楽しむ”
「田野井製作所にはワークライフバランスを充実させながら、自分の実力を最大限に生かせる環境があった」と入社理由を語る岩佐さん。 前職からシステムエンジニアとしてキャリアを積み重ねてきた岩佐さんが入社したのは7年前のこと。現在では同社に必要不可欠な存在として成長を続けている。そんな岩佐さんは仕事をする上で、“楽しく働くこと”を大事にしている。しかし、「仕事が楽しすぎて、夜遅くまで仕事に没頭していたことがあった」と仕事を楽しむ反面、夜遅くまで働くことで家族との時間を犠牲にしてきたという。その中で、2011年3月11日に起きた東日本大震災をきっかけに、家族との時間の重要性を感じた岩佐さんは働き方を変えることを決意。その後自宅の近くでシステムエンジニアとして活躍できる会社を探している中で、同社に出会い入社を決めた。現在はシステムエンジニアとしてはもちろん経営管理部の部長として、活躍の場を広げている。
人のためにできることを仕事にする
岩佐さんは、「小さい頃から人のための何かをすることが好きだった」と幼少期を振り返る。当時の思いは今も変わらず“会社のために自分に何ができるのか“を常に考えながら仕事に取り組んでいる。そんな岩佐さんは日頃から同社で働く社員を”お客様”だと思うように意識しているという。「お客様だと思うことで、社員がより働きやすくなるためにはどうすれば良いのかを深く考えられる。」と語る岩佐さんは現状のシステムを改善することで社員が働きやすくなっているか否かを意識し続け、日々の仕事に打ち込んでいる。その姿は田野井社長からも高い評価を受けており、会社に必要不可欠な存在と成長している。また、システム改善の傍らで、採用担当者としての業務もこなす。採用のシーズンには数多くの学生に触れ合い、学生に寄り添った採用活動を行っている。常に“誰かのために”を考え続け、仕事に取り組む姿は、周りからも一目置かれている。
会社と共に自分自身を成長させる
「会社をより良くしていきたい。」と同社に対しての思いを語る岩佐さん。今後のキーマンとして成長を遂げていく。そんな岩佐さんの夢は大きく2つある。1つは社員全員がイキイキ・ワクワク働ける「たの"し"い製作所」にしていくことだ。「チャレンジすることで成長でき、各自の成長が事業の成功に繋がっていく。」と語る岩佐さん。そのために目標管理制度や評価制度を社員の成長を後押しできるツールに成長させていきたいと意気込む。もう1つについては「自社のシステムを進化させていくとともに、他社のシステムにもアプローチをしていきたい」と語り、「企業は、時代の変化に合わせ、システムを改善していく必要があると思います。そんな中、製造業の中小企業のシステム化が進んでいないことに違和感を覚えています。」とシステムの浸透がされていない現状に危機感を持つ。そんな現状を変えるべく、今後システムについての発信を行い他社にも広げていきたいと意気込む岩佐さん。 今後も田野井製作所にとって必要不可欠な存在として成長を続けていく。
学校に訪問し、説明会を開催している
岩佐さんは幹部社員として社員をまとめている
”モノづくり”において数多くの受賞歴をもつ
岩佐さんの目に映る田野井製作所
採用担当者として今後どんな人財を採用していきたいですか。
これからも積極的に採用活動を行っていきたいと思います。企業が存続するためには人財が必要となり、その人財が会社を発展させていきます。当社は新卒、中途採用を行い、人財の獲得を行っています。新卒採用では明るく、素直な学生を採用し、90年以上続く田野井製作所の技術はもちろん社内文化を含めた“田野井イズム”の継承を行い、田野井製作所の未来をつくる人財を育てていきたいと思います。中途採用では、新たな刺激を与えてくれる人財を採用していきたいと考えています。これまで当社は新卒からの生え抜きの社員がほとんどで、社内文化が確立されてきましたが、外部からの刺激が少なかったように思います。なので、私を含めた中途社員が会社をより進化させるために新たな刺激をもたらす必要があります。
岩佐さんが知る田野井製作所の歴史を教えてください。
当社の創業は97年前に遡ります。創業者の田野井丈之助さん(本来は旧漢字、丈の右上に点あり)が横須賀の海軍工廠で大砲の照準機をつくっていた際に、タップの存在を知ったことがきっかけでした。当時の日本はタップ製造を行っておらず、海外からの輸入に頼っていました。その事実を知った田野井丈之助さんは早速タップの製造を行い、日本製で高品質で低コストのタップ製造・販売を始めました。そこから90余年経った現在も世の中のほとんどの製品にねじが使われており、人々の生活に必要不可欠な存在です。今後100周年を迎えるにあたり、田野井製作所の歩んできた歴史を大切にし、未来に向かって新たなチャレンジをしていきたいです!
岩佐さんから見た田野井社長を教えてください。
“人”に対しての思いが強く、社員一人ひとりの成長を望んでくれている人です。
田野井社長はどんな時も明るくポジティブで実行力のある方です。業績が落ち込んでいるときでも、「次のチャンスに備えて準備をする大切な時間」として捉えており、暗くならずに常に明るい未来を考え、それを行動に移していく。そんな田野井社長には見習うべきことが多く、一緒に働けてとても充実した日々を送れている実感があります。そのために私自身より成長していかなければいけません。当社で働く社員が働きやすくなるシステムを改善していくことはもちろん、採用担当者として会社の未来を築いていく人財を獲得していきたいです。また、会社をより良くしていくためにさまざまなアクションを起こし、田野井社長とともに田野井製作所の未来を描いていきたいと思います。
担当者からのコメント
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監修企業 担当者
この度は取材のお引き受けいただきありがとうございました。
「モノづくりを通じた、人づくり」というテーマやお取組みは多くの企業の参考になると思います。「小さくてもキラッと光る会社」として迎える同社の100周年に目が離せません!誠にありがとうございました。
掲載企業からのコメント
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株式会社田野井製作所 からのコメント
取材の中で自分自身の思いを再認識しました。3年後には創業から100周年を迎える当社はこれからも”人づくり”をモットーに今後も発展していきたいと思います。この記事をみて、未来を共につくる仲間が増えれば良いなと思います。
企業情報
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創業年(設立年)
1923年
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事業内容
切削タップ、転造タップ、転造ダイス製造・販売
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所在地
埼玉県白岡市岡泉953
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資本金
5,000万円
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従業員数
161名
- 会社URL
沿革
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1923年~1962年
1923年
創業
1945年
埼玉工場を新設
1955年
日本工業規格(JIS)ハンドタップ2・3級表示許可工場となる(許可番号第4033号)
1958年
日本工業規格(JIS)ナットタップ3級表示許可工場となる(許可番号第5922号)
1959年
日本工業規格(JIS)ハンドタップ1級表示許可工場となる(許可番号第4033号)
1961年
日本工業規格(JIS)ねじ切丸ダイス精級・並級表示許可工場となる(許可番号第7969号)
工業標準化実施優良工場として東京通商産業局長より表彰される
1962年
溝なしタップの製造に関して米国ベスリー・ウエルズ社と技術援助契約を結ぶ -
1963年~2002年
1963年
溝なしタップに関する技術援助契約が日本政府より正式許可され、製造・販売を開始(外資法認27875号)
1964年
工業標準化実施優良工場として工業技術院長賞を受賞
1973年
宮城県刈田郡七ヶ宿町に株式会社ミヤギタノイ(資本金3,000万円)を100%出資にて設立し、操業を開始
1987年
CNCネジ研削盤を開発・導入
1990年
Tシリーズ化を進め、TSP・TGNを発表・発売
2002年
第14回中小企業優秀新技術・新製品賞(技術・製品部門)でITタフレットが奨励賞を受賞
(財団法人あさい中小企業振興財団・日刊工業新聞) -
2003年~2011年
2003年
第1回モノづくり部品大賞でマルチタップが奨励賞を受賞(日刊工業新聞)
2007年
「日本のモノ作り中小企業300社」として経済産業省より認定され、感謝状を受ける
2008年
社団法人発明協会 東北地方発明表彰 特別実施功績賞を受賞
「東京都ベンチャー技術大賞」でゼロチップタップが奨励賞を受賞(東京都)
日本工具工業会 環境特別賞を受賞
2009年
2010年“超”モノづくり部品大賞 奨励賞を受賞
2011年
「第4回みやぎ優れMONO」に田野井製作所の子会社であるミヤギタノイのゼロチップタップが認定される
社団法人発明協会 東北地方発明表彰 特別賞実施功績賞を受賞
取材趣旨:企業インタビュー