取材趣旨:企業インタビュー
今回取材をさせていただいたのは、新潟県見附市に本社を構える株式会社IPS PLIERS(アイ ピーエス プライヤ)。1940年に新潟県三条市にて創業し、地元新潟を拠点に成長を続けてきた。国内唯一のプライヤ専門メーカーとして80種類を超えるプライヤを製造する他、クラウドファンディングを利用したアウトドア向けの商材など展開を広げている。メイドインジャパンにこだわり、国内外に販路を有している同社。内山代表 (1992年生まれ)は都内のアパレルブランドで勤務していた頃に、燕三条のモノづくりの偉大さを再確認して帰郷。元々会社を継ぐ気は全くなかったという。今回、代表取締役である内山代表に株式会社IPS PLIERSが大切にする考え方や会社の将来に対する情熱をについてお話を伺った。
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株式会社IPS PLIERS
代表取締役山航洋
国内唯一のプライヤ専門メーカーとしての誇りと責任を持ち、弊社にしか出来ない新しい価値の創造と高品質な商品を通じて社会に貢献し続けます。
「未来の為に将来生まれてくる子供たちのために、本当に良いものを残す。」
目次
プライヤを誰もが知る存在に 老舗ベンチャー企業 若き代表の挑戦
本物を日本に残す。本物を世界に伝える。
内山代表は先代の急去で28歳のときに4代目代表取締役に就任。「それぞれの時代に役割があって意味がある。」と答えてくれた。内山代表が物事を考えるときは、「歴代社長の場合どのように考えてどのような結論を出すか」を考え、その後に自分に求められている結論を出すという。初代である五十嵐末一郎が1940年にプライヤメーカーとして五十嵐製作所を創業し、プライヤを創りはじめた。その後、二代目の五十嵐力はプライヤの販路を国内外に広げていった。三代目の内山晃は、アイデアを駆使しIPSブランドの商品群を拡充させた。内山代表が目指すのは、世界№1プライヤメーカー。現在は、国内唯一のプライヤ専門メーカーとして、オンリー1な存在の同社。歴代社長の意志を受け継ぎつつ目指す場所の再設定、ビジネスモデルの再構築をおこなった。内山代表は、プライヤという工具を通して、社員、ステークホルダー、関わる全員が豊かになってもらいたいと考えている。
商品開発から生まれる本物のモノづくり
IPS PLIERSはお客様の声から生まれるモノづくりを大事にしている。商品パッケージにはお客様からの意見を収集するアンケートはがきが同梱されており、毎日会社にお客様からはがきが届くという。「そこから企画し、製図し、サンプル作成をし、修正し、金型治具のイニシャルコストをかけて製造し、販売する。凄いコストが掛かります。でも、それが本当のものづくり。だから当社は、やるんです。世の中にない面白い工具つくりたいじゃないですか」内山代表は、今後“IPS”という自社ブランドを浸透させていきたいと語る。(IPSとは、現在の社名の前身である五十嵐プライヤー製作所の略)「当社ブランド“IPS”のようにプライヤのみで80種類を超えるラインナップを製造する企業は世界中をみてもないですね。しかも全部純日本製ですよ。JIS規格を超える水準の高品質な工具を提供するために材料から熱処理の温度から目に見えないところまで相当こだわっています。だからこそ“IPS”としてブランディングをしていき世界中から認知されるブランドとして成長させていきたいですね。」と熱く話し続けた。
プライヤを誰もが知る存在へ
内山代表に同社の展望について伺うと「日本はプライヤの認知度向上を図ること。世界は“IPS”ブランドで日本製を認めてもらいたい。」と答えてくれた。具体的には、国内でプライヤを見せた時に「あぁ、ペンチね。」 と言う人をなくしたいという。東京から燕三条に帰郷する覚悟を決めたとき「なにが航洋をそこまで突き動かすんだ」と周囲から言われた際「プライヤをつくる」と伝えたところ、「プライヤってなに?」と言われたことが悔しかったという。歴代が矜持し製造をし続けてきたプライヤがここまで世の中に広がっていないなんて。「私の代でプライヤを誰もが知る存在にし、『もっと早く知っていればよかった。』と言ってくれる人が1人でも増えるように貢献したい。」と語ってくれた。最後に内山代表は、初代は原点。二代目はX軸。三代目はY軸。私はZ軸だと考えている。歴代が成し遂げたことをしっかりと引き継ぎしっかりとした面を国内外で高品質な日本製のプライヤである“IPS”を構築していきたいと語った。IPS PLIERSという社名に込められた思いが伝わってきた。
プライヤーを通じて「楽しむ」
経営を行う上で大切にしている考え方は何ですか?
「数字を通じて豊かになること」が大切だと考えます。企業数値についても積極的に開示しています。「企業数値の開示」と「数字での会話」は、私の代になってから初めて実施していることです。年間計画を立てた上で、半期毎に私が皆の前で結果と今後の方針のプレゼンをし、客観的に結果と目標を共有しています。数字には普段自分たちが行っていることが顕著に現れます。「数字を見て会話が出来ない、数字の意味を理解できない」ことは自分たちが行っている事柄を客観的に証明できないということなので非常に勿体ないです。一種のゲーム感覚で皆が数字を分かることにより、利益・効率が上がることで仕事が面白くなっていってもらいたいです。利益を上げて給料も上げていくことでみんなの考え方も生活も豊かになるように私も努力しています。
今後の展望を実現していくにあたり、 カギとなるのはどんなことですか?
以下の5つを考えています。
① みんなでつくる「IPS」
② 本物をつくり続ける
③ 徹底的な差別化、圧倒的な差別化
④ PLIERS = IPS PLIERS
⑤ MADE IN JAPAN、MADE IN TSUBAMESANJOの素晴らしさを世界に伝える
組織づくりの上で大切にしていることはありますか?
【みんなの個性を活かす。良い部分を育てる。主体性の尊重。心理的安全の構築。なぜIPSで働いているのか。なんのためにIPSで仕事をしているのか。IPSで何ができるのか。自分にしか出来ないことは何か。】どうせ仕事をするなら面白いほうがいいです。仕事は生活の時間の3分の1を占めています。人間が得られる4つの幸せのうち3つは仕事を経由しないと得ることが出来ません。全部「金将」では将棋は勝てません。全員オフェンスのサッカーでは勝てません。それぞれの個性をどのように活かすか。その人が輝けるシチュエーションは何か。得意玉は何か。打席に立つ回数が多いほど打率は上がります。本人がバッターボックスに立ちたいと思わせるような組織づくりを製造部長の中澤をはじめみんなと取り組んでいます。代表取締役である私は最後まで舞台演出家。主役ではありません。成功体験を積むことでみんなが自信と誇りをもって仕事ができる環境整備を大切にしています。PLIERSがなければみんなと出会うことはありませんでした。いいものづくりを続けることでいい人に出会うことが出来ると信じています。当社に関わる全ての人の幸せの好循環を私はプライヤというフィルターを通して具現化していきたいです。
(IPSブランドの 商品ラインナップの一部)
会社の発展に向けて 組織の基盤をつくる
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株式会社IPS PLIERS 製造部部長 中澤幸治
国内唯一のプライヤー専門メーカーとして、キャンプ向けの商材など事業拡大を図っている株式会社IPS PLIERS。国産材料にこだわり、国内外に販路を有している同社。その製造の指揮を執るのは、製造部の中澤部長である。内山社長から「会社のあり方、ものづくりの仕方を再構築するうえで、重要な人物」と信頼も厚い。ものづくりへの熱い想いと、組織や働く人を大切する中澤部長。そんな中澤部長に、これまでの歩みと今後の展望を伺った。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
ものづくりに携われ、挑戦できる環境
製造部の中澤部長に入社理由について伺うと、「ものづくりに携われ、挑戦できる環境を求めて、IPS PLIERSに入社した」と答えてくれた。前職では樹脂専門の会社で働いていた中澤部長。元々、ものづくりが好きで、プラスチックの精密部品加工携わっている中、人生で一度挑戦したいことがあったという。それは、ホームページでお店を持つこと。自分の夢と生活の両立を図るために、好きなものづくりに携われる仕事を探していた。内山社長の父である先代社長に、その話をすると、「仕事に支障をきたさなければ、自由に挑戦して良い」と背中を押してくれたという。自由に挑戦できる環境に惹かれ、入社を決意した中澤部長。現在の内山社長も好きなことへの挑戦と、楽しめる職場環境をつくっているという。そういった中で、「ものをつくる」だけでなく、「環境や繋がり」をつくることにも楽しみを覚えている。「ルールや厳しいところはありますけど、自由に挑戦できます。失敗しても怒られることはないですし。動かない方が注意を受けます。」と笑いながら話してくれた。
組織をつくり上げていく
中澤部長は現在、組織をつくり上げていくことににやりがいを感じているという。中澤部長は入社してから製造作業に携わった後、現在では外注業者など社外とのやり取りを行っている。社外と関わるようになったことがきっかけで、人と関わることが好きだと気づいたという。会社に人が集まってくる中、利害関係も違う状況で、同じ方向を向いて、組織として働くことを日々模索している。まだまだ道は半ばというが、チーム、連帯感、家族的な仲間意識を強めた組織を目指し前進を続けている。思い描く組織に向けて、知識向上にも余念がない。心理学、マネジメントを学び、仕組みづくりに取り組んでいる。その結果、社員に自発性が出てきたり、困ってるときに誰かが助けてくれる雰囲気を感じるようになったという。組織として、プライヤーづくりに真摯に向き合う事が、結果して自分たちの暮らしを良くすることに繋がると思うと語ってくれた。
認められる組織に
中澤部長に現在の夢について伺うと、周りの人から認められる組織を目指していると答えてくれた。自分自身も周りから認められる人間になりたいという。例えば、外注業者が工場に来た時に「変わったね!」と言われる存在を目指している。それが生産高や数字にも表れてくれることを夢見ている。数字や生産性を意識するために、現場にも生産のグラフをつけることにも取り組んでいる。課長職の人や現場の人が率先しているという。他にも、新製品の開発やチームビルディングなど新しいことを始めている一方で、自身の立ち位置は、中心に入るのではなくサポートしていく立ち位置だという。野球部のマネージャーみたいなポジションですと笑いながら話してくれた。そうやって、新しいことに組織として挑戦することによって成果が生まれ、その結果、周囲から認められる組織を目指していると答えてくれた。
高い品質を保つために 細心の注意を払って作業を行う
スタイリッシュな同社のロゴ
鍛造により、 高い強度と靭性を得る
皆で喜びを分かち合う
内山社長はどんな人ですか?
若さと情熱があって、好きなことを自由にやらせてもらえる、懐の大きい社長です。また、会社や社員のことを常に考え、どのようにしたら皆が働きやすい環境をつくれるかを考えてくれていると感じます。そのおかげで、心理的安全性が高まり、社員全員が意見を率直に話すことができます。忖度のない意見を言い合えるため、「夫婦喧嘩をしているみたい」と笑われることもあります。意見が出やすい職場環境をつくれていることが、社員全員が数字や生産性を意識するきっかけになっていると思います。このように会社の良いサイクルが回っている根底にあるのは、内山社長の人柄だと思っていますし、尊敬しています。
IPS PLIERSをどんな会社にしていきたいですか?
皆で喜びを味わえる会社にしたいと思っています。例えば、1,000円で何かを買っても自分だけだと1,000円分の価値ですが、皆で共有すれば倍以上の価値になると思っています。そのために、働き続けられる会社にしていきたいです。かつては、離職が続いた時期もありましたが、チームビルディングに取り組むことにより、現在では働き続けられる会社に変わってきていると思います。人間なのでぶつかる部分もありますけど、繰り返していくと、その先の喜びを掴めるのではないかと楽しんでいます。結局皆、根本は働きやすい環境を求めていると考えているので、皆で喜びを味わえる会社を目指して、前進していきたいです。
夢の実現に向けて 中澤部長が意識的に取り組んでいることは何ですか?
社員の巻き込み方を意識して取り組んでいます。例えば、原価を下げるために、自分たちから指示をするのではなくて、現場の方に気付かせることを意識しています。具体的には、会議とかミーティングではなくて、職場のキーマンに個別で話しかけています。全体会議ではなく、個々に話していくということを大切にしています。伝えたいことがあっても、その人によって受け取り方が変わるため、伝え方を気を付けています。その人が仕事においてどういう価値観を持ってるかなどパーソナルな部分にも注意しています。そうやってコミュニケ―ションを大切にし、社員の巻き込み方を意識することによって、回りから認められるような組織になっていると思います。
担当者からのコメント
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監修企業 担当者
お忙しい中、取材にご協力いただきありがとうございました。
内山社長の想いやビジョンに触れることができ、IPS PLIERSの将来に対する情熱が伝わってまいりました。プライヤーの認知度がさらに向上すること。ならびに、貴社のさらなるご活躍を応援しております。
掲載企業からのコメント
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株式会社IPS PLIERS からのコメント
今回の取材を通じて、自社の想いやビジョンについて改めて考える機会を得られました。また、当社がこれまで歩んできた道を思い返す良い機会となりました。私たちの目指す方向性や価値観を共有し、それを実現するための取り組みを進めていきたいと思います。今後のIPS PLIERSにご期待ください!
企業情報
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創業年(設立年)
1940年
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事業内容
プライヤ、ウォータポンププライヤ、特殊形状プライヤ、各種作業工具の開発製造販売
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所在地
新潟県見附市坂井町1-4-3
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資本金
1,000万円
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従業員数
36名
- 会社URL
沿革
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1940年~1983年
1940年
新潟県三条市に五十嵐製作所として創業
1958年
(有)五十嵐製作所設立 資本金100万円
1962年
(株)五十嵐プライヤー製作所に300万円に増資
三条市直江町2丁目に工場新築移転、設備の合理化と増産体制を図る
1972年
アメリカのフェデラル規格に合格、米連邦調達局(GSA)へ納入開始
1973年
日本工場規格(JIS)表示許可工場となる
1983年
工場新築し、全面移転(現本社・工場)自動合理化を図る
(株)五十嵐プライヤーに社名変更 -
2001年~2023年
2001年
五十嵐力 取締役会長に、内山晃 代表取締役に就任
2008年
従来の日本工業規格JISより新JIS日本工業規格取得
2020年
五十嵐プライヤー公式オンラインショップが開設
2021年
内山 航洋 代表取締役に就任
2022年
株式会社IPS PLIERS(アイピーエス プライヤ)に社名変更
2023年
「ソフトタッチネオ」がグッドデザイン賞を受賞
取材趣旨:企業インタビュー