日本が誇る伝統と挑戦の革新企業

取材趣旨:企業インタビュー

株式会社ヒカリは、理容師さん・美容師さんがヘアカットに使うハサミ(シザーズ)のブランドとして、日本のみならず、欧米においても、高い知名度を誇る企業だ。ヒカリの歴史が始まったのは1967年。高橋社長が、理髪店の3代目だった父とともに、より良いハサミの研究を行うために光刃物研究所を立ち上げたのが始まりだ。日夜シザーズの研究を行う中で、ヒカリに訪れた大きな転機が「蛤刃(はまぐりば)」を持つシザーズの開発。蛤刃とは刃の断面に蛤のような丸みを持たせた形状の刃で、日本刀と同じ構造となる。ヒカリは、「髪に触れるだけで切れる」と言われるほど切れ味抜群のシザーズを世に送り出し、理容業界の常識を覆すパイオニアになった。そしてこれからも今までにないシザーズを生み出し続け、業界の新たなスタンダードをつくっていく。今回の取材では、創業者である父とともに二人三脚でシザーズを開発し、会社を大きく発展させてきた、高橋社長にお話を伺った。

  • 株式会社ヒカリ

    代表取締役社長高橋 一芳

    どこからどこまでが「手造り」なのか。ヒカリではほとんどすべてが手造りです。特に「蛤刃」は熟練した職人の手作業でなくては造ることはできません。
    均一な力でスーっと切れるということは、刃が交わるたった1点で切っているということ。
    ヒカリは2本の刃の微妙な曲線を職人が手造りで調整して、あの独特の切れ味を造りあげているのです。
    形は真似できても、この切れ味だけは真似できません。

目次

伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質

社風

お客様に喜ばれるものを追求する

「喜ばれるものをつくろう」それがヒカリの合言葉だ。つくった製品が、お客様に喜ばれるものであるかどうか。それがヒカリにおける絶対的な指標であり、その言葉のもと、職人の手によって一つ一つ丹念に手づくりされているヒカリのシザーズは、抜群の切れ味を持つとして理容業界で有名だ。 「喜ばれるものをつくる」ことを重視している背景には、高橋社長の一つの信念がある。それは、「製品がお客様に喜ばれるからこそ対価を得ることができ、感謝がある」という考え方だ。かつて高橋社長は、自ら製造したシザーズを理容師さん・美容師さんに対して実際に試してもらい、その切れ味に驚いてもらうことで認知度を高めてきた経験がある。また、100以上ある品質のチェック項目をクリアしていることは当然として、常日頃から「お客様は喜んでくれるかな」と職人に対して語りかけ、それを超えたレベルを職人に要求し、使い手が真に喜び、笑顔になる道具づくりを追求している。品質に徹底的にこだわり、お客様に笑顔や感動を与えること、それがものづくりの喜びであり、ヒカリが最も大切にしている考え方である。

独自性

研究開発から製造販売までの一貫したサービス

お客様のニーズをくみ取り新たな製品を生み出していく、研究開発・製造・販売・アフターケアまでの一貫した体制がヒカリの独自性だ。 一般的なメーカーは、生産の効率化を考え、製造面で他社の協力を得たり、販売を問屋に委託しているところもある。一方、ヒカリは、自社で研究開発、製造、代理店方式での販売、アフターケアまで行うからこそ、メンテナンスに訪れたお客様から製品に対する使い心地や改善点に対する意見を口頭やアンケートを通じて直接吸い上げ、すぐに開発部門に回すことで、短期間での製品開発や仕様変更が可能になっている。 その結果、数多くの製品の開発が行われ、現在では、使い手の負担を軽減すると言われている「SEV」を搭載したモデルをはじめ、35シリーズ110種類以上のラインナップを展開するまでに至った。この一貫したサービス提供こそが、理容師さん・美容師さんの使い勝手の向上を第一に考えてきたヒカリならではの仕組みである。

展望

業界に驚きと感動を提供する

「理容業界に新たな驚きと感動を」それが、ヒカリの使命であり、目指すところであると高橋社長は語る。同社は光刃物研究所の創設者である父とともに、50年前に蛤刃のシザーズをつくり出した時から、常識を変える製品を生み出し、業界を驚かせ続けてきた。 高橋社長が次に世に送り出そうとしているのが、腱鞘炎にならないシザーズ。理容師さん・美容師さんは、一人のヘアスタイルをつくるのに、700回もシザーズ開閉の動作を繰り返す。シザーズの開閉は手に負担をかける動作のため、腱鞘炎は美容師さんの職業病だ。そこでヒカリは人間工学に則り、手に負担がかかりにくい構造のシザーズを開発。4,5年後には理容業界で高い知名度を誇る製品へと成長させる計画だ。かつてどこにもなかった蛤刃のシザーズが、業界の常識となったように、他社が追い付き追い越そうとしている環境の中でも、業界きっての開発力を生かして「どこにもない製品」を生み出し、理容業界に新たな驚きと感動を生み出し続ける。

高橋社長の、会社と次世代に対する想い

会社を存続発展させる秘訣を教えてください

常にお客様である理容・美容業界に対してアンテナを張り、情報を得ることです。お客様からの情報が途切れてしまうということは業界の最新の状況が分からなくなることでもあるので、常に理容師さん・美容師さんからの情報を得ていくことを大切にしています。私たちは毎年、業界のトップスタイリストとともに、新しいヘアスタイルを追求することと並行して、新しいヘアスタイルを実現するための道具を研究開発しています。開発の際はシザーズの刃の微妙な角度や、指を通す穴の大きさや形、重さなど、様々な条件を変えてテストを繰り返します。現場で一旦は「完璧だ!」と思った製品でも、実際にプロに使用してもらい意見を聞くことで、改良点が見つかり、精度を高めることができます。だからこそ現場からの意見を取り入れることをこれからも大切にしていきたいですね。

会社を経営する上で、転機となったできごとについて教えてください

心筋梗塞で入院したことですね。心臓が止まったのですが、なんとか生かしてもらったんです。それまでは、ただひたすらに働いていたんですが、そこで改めて考えて、「経営者としての心がけを変えなくては」と思いました。 それまでは社員に対して、「自分ができるんだから他人だって簡単にできる」と思っていて、教えることを重視していない部分がありました。ですが、病気を期に、「社長がいなくても大丈夫な会社をつくろう、人を育てていこう」と思ったんです。実際に、自分一人ががむしゃらにしていれば良いという考えは捨てて、営業マンへの教育もやりましたし、技術を社員に渡すということもやっていきました。「現場で働く人間が強く、どんな状況でも勝てる」、「少数で強い」というのを目指してやってきたんです。昔からいる社員には口揃えて「社長は変わった」って言われますね。皆さんの力を借りながら、一緒に良い会社を目指していきたいですね。

若い人へのメッセージをお願いします

「今やりたいこと」を宣言して、それを達成してほしいと思っています。以前、大学の先生方からの依頼で、学生に対して講演することがあったんですね。そこで学生たちに「目標があるか」と聞くと、皆「目標は何もない」と言うんです。ですが、目標はなくとも、やりたいと思うことにまずは何でもいいから取り組んでほしいと思います。車が欲しいとか、彼女が欲しいとか、スーツが欲しいとか、何でもいいんです。重要なのはそれをいつまでにやるか決めることで、決めればそれを達成するためにがむしゃらにやるだけなんです。自分自身も、アメリカで見たヘアショーをどうしても日本でやりたくて、とことん努力してお金を貯め、力を付けて実現した経験があります。「やる」と決めたことを必ず達成するということを繰り返していけば、どんどん人生が変わっていくと思いますよ。

  • ヒカリの原点、蛤刃のシザーズ

  • 常識を変える腱鞘炎にならないシザーズ

  • 平成25年に板橋製品技術大賞を受賞

作り手と使い手の思いに応える

株式会社ヒカリ 営業事務 竹鼻秀樹

シザーズのトップブランドとして、国内のみならず世界中で愛されるヒカリ。販路拡大の背景には、高橋社長を筆頭とする営業部隊の地道な努力があった。海外の販路開拓にあたっては、社長単身でアメリカの展示会を渡り歩き、1丁あたり25ドルが相場のところ、1丁175ドルのシザーズを販売。初めのうちは全く相手にされなかったが、研磨技術のすばらしさ、切れ味の良さでお客様を掴んでいった。その後も全社を挙げて精力的に海外市場を開拓し、今や世界15か所に販売拠点を持つほどまでになった。また、国内の営業に関しても独自の代理店制度を構築し強固な販売網を創り上げるなど、創業以来、販路開拓に力を入れてきた。今回はヒカリのもう一つの強みである営業面に関して、ヒカリの営業に携わる竹鼻さんにお話を伺った。

伝統の承継と挑戦の未来を担う社員の思い

入社理由

社長のものづくりへの想いに惹かれて

転職を考える際、次の仕事では「ものづくりに関わりたい」という想いを持っていた竹鼻さん。自分自身の手で製品をつくりあげ、お客様に提供できることに魅力を感じていたそうだ。多くのものづくりの企業の中からヒカリを選んだのは、知り合いの美容師さんが絶賛するほど、美容・理容シザーズの業界では際立った技術力のある企業だったからだ。 また、ヒカリに応募した時点では、シザーズの製造にも関心があった竹鼻さんだが、高橋社長との面接で営業にやりがいを感じ、営業としての入社を決意した。ヒカリの根幹となるのはシザーズの製造。職人が技術の粋を集めて1丁1丁手づくりするシザーズは、ヒカリならではの高い品質を誇っている。そして、製造と同じくらい重要なのが営業。営業活動があるからこそ、日本、そして世界中にヒカリのハサミを届けることができるのである。 現在でも、社長の「営業を一緒に創り上げていこう」という言葉を胸に刻み、営業に情熱を燃やし続けている。

やりがい

「一生の相棒選び」に携われること

自らが対応したお客様が喜んでくれることが「何より嬉しい」と竹鼻さんは語る。ヒカリのシザーズの価格は、1丁あたり5万円から7万円。理容師さん・美容師さんは、シザーズをメンテナンスしながら20年、30年と使っていく。シザーズは一生付き合っていく商売道具であり、シザーズを選ぶことは、理容師さん・美容師さんにとって、大きな決断なのである。だから、営業担当はお客様にシザーズを購入していただくために、様々な方法で商品の価値を伝えている。展示会や販売会で、お客様の要望を聞きながら、お客様に適したシザーズを絞り込んでいくことや、試し切り用のシザーズでウィッグを切ってもらうことなど、多様なアプローチで、シザーズの切れ味や使い心地の快適さを真摯に伝えていった結果が、購入なのだ。理容師さん・美容師さんにとって、仕事の質を大きく左右する一世一代の買い物。重要な決断の場面に関われることが営業マンとしての冥利に尽きると、竹鼻さんは教えてくださった。

今以上に、お客様とシザーズを大切にする会社へ

竹鼻さんは、「今以上にお客様と密な関係を築き、お客様が道具の不安なく、安心して腕を振るうことができるように尽力したい」と言う。 お客様の安心のために取り組んでいくことの一つとして、シザーズの1丁1丁をきめ細やかに管理するシステムの構築が挙げられる。例えば、それぞれのシザーズについて、どこで購入したか、購入してからの期間はどれくらいか、最後にメンテナンスに出したのはいつか、などの情報を管理して、お客様にメンテナンスの案内を出すことから始まり、お客様が自身のシザーズを修理、アフターケアに出した際、逐一シザーズの状況を報告できる体制を目指している。 通常、修理やアフターケアの期間中、大切な商売道具が正しく扱われているかどうか心配されるお客様は多い。そこで、シザーズが手元にない期間、修理がどの工程まで進んでいるかについて定期的に情報を発信することができれば、お客様とより一層の信頼関係を築いていくことが可能になる。 シザーズの1丁1丁の管理をはじめ、お客様に対してベストタイミングでメンテナンスが提案できるような、管理システムの構築に取り組み、今まで以上にお客様を大切にする会社になることが竹鼻さんの夢だ。

  • 研磨技術の講習会

  • シザーズの購入は大きな決断

  • 多様なすき率があるすきばさみ

営業事務に聞いた、ヒカリの営業のこだわり

他社に負けないこだわりは何ですか

抜群の切れ味を生み出す研磨の技術です。ヒカリでは、峯の厚みを残しながら鋭い刃付けを施し、実用性と切れ味の両立を実現しています。他社には真似できない、抜群の技術が根底にあるからこそ「ヒカリのシザーズは切れる」という評価をいただけているのだと思います。 この本社の2階には東京工場があって、私たち営業も実際に職人の方が研磨する姿を見ていますし、職人の方と会話する機会も多くあります。その中で、職人の方がおっしゃるのは、「技術に終わりはない」という言葉です。ものづくり全般に通じる言葉だと思いますが、実際、現場で研磨している場面を見ると言葉の重みを感じます。一言では言い尽くせないような、職人の方の熱の入れよう、こだわりようを実際に見ているので、自分自身が展示会でお客様に対して語る言葉にも重みが出ますね。

営業事務として心がけていることは何ですか

ある時、「研磨に出したんだけど切れが良くない」というご指摘をいただきました。一口に「切れない」と言っても、お客様が感じている「切れない」という感覚は一人ずつ違います。他の人には分からなくとも、何時間も触れているオーナーだからこそ、本当に微妙な仕上がりの差に違和感を持たれることがあるのです。このように研磨に出すと感覚が変わってしまうかもしれないという不安がある中で、メンテナンスを任せていただいているので、使う側の立場に立って、自分本位にならない対応をしていくように心がけています。 その時は、お客様が普段どの様に使われているかをできる限りヒヤリングすることで、正確に状況・状態・症状を職人に伝え、 「これならお客様にご満足いただける」という仕上がりまで持っていきました。結果的に、お客様からも「良かったよ」とお電話をいただくことができて、じんと来ましたね。

竹鼻さんの思うこれからのヒカリに必要なことは何ですか

今に甘んじず、挑戦していくことが必要だと思います。特に、新しい技術を勉強して、今ある加工の技術を高めていくことが必要だと考えています。以前、板橋の最優秀技術賞をいただいた時に、授賞式の場には最先端の技術を持つ会社さんだったり、ある分野に特化した会社さんが集まっていて、例えば、3Dプリンターを使った試作品づくりなど、シザーズの製造力を高めるために生かせることがたくさんあるなと感じました。他社の優れた技術を取り入れて、新しい技術を吸収する、将来的には自社でできるようになるくらいの心構えは必要なのだと思います。また、どれだけ技術が進んだとしても、シザーズの刃付け、研磨作業は人間の手仕事でしかできない工程です。だからこそ最新の技術と手仕事の職人技を組み合わせて、日々向上していくプロの方の要求に応えられるように挑戦をしていきたいです。

担当者からのコメント

  • 監修企業 担当者

    蛤刃のハサミへの応用を皮切りに、理容・美容シザーズの世界で確固たる地位を築いてきたヒカリ。今回の取材では、高橋社長のシザーズに対する深いこだわりを感じました。創業以来、連綿と引き継いできた「プロが感動するシザーズを生み出す」という想いはそのままに、これからも既存の概念にとらわれない新しいシザーズを追求していくという意気込みが伝わってきました。理容室・美容室を訪れた時にはプロの使うシザーズにも注目してみてください。

掲載企業からのコメント

  • 株式会社ヒカリ からのコメント

    今回の取材を通じて、父と会社を立ち上げてから今日までのことを振り返ることで、会社と自分の現在地、そしてこれから目指すべきところを改めて認識することができました。これからも理容師さん・美容師さんの想いに応えられるシザーズの開発に尽力して参ります。

企業情報

  • 創業年(設立年)

    1967年

  • 事業内容

    理美容シザーズ製造販売、キューティクルニッパー製造販売

  • 所在地

    東京都板橋区幸町25-8

  • 資本金

    1,300万円

  • 従業員数

    58名

  • 会社URL

    https://hikari-scissors.com/

沿革

  • 1967年~1992年

    1967年
    有限会社光刃物研究所設立。

    1976年
    東京工場設立。

    1983年
    新潟工場設立。

    1985年
    株式会社ヒカリ・プロダクツ・ジャパン設立。

    1986年
    ワールドヘアーショウ '87を開催(全国主要都市9ヶ所で開催)。

    1990年
    インターナショナル東京 '90 国際見本市出展。

    1991年
    レーガン元大統領(アメリカ)を訪問。

    1992年
    ヘアーワールド '92出展。

  • 2000年~2014年

    2000年
    光刃物研究所とヒカリ・プロダクツ・ジャパンを合併し、株式会社ヒカリ設立。

    2002年
    北海道営業所設立。

    2004年
    研磨工房 アテリア光表参道開設。

    2007年
    設立40周年記念イベント HIKARI EVOLVE開催。

    2011年
    大阪営業所移設。研磨工房 アテリア光大阪開設。

    2012年
    韓国にアテリア光コリア開設。

    2014年
    本社・東京工場移設。

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