取材趣旨:企業インタビュー
オランダせんべいをご存じだろうか。実はこのせんべい、製造しているのはオランダではなく、山形の企業。東北限定で販売しているせんべいであるにも関わらず、年間2億枚の製造量を誇るせんべいだ。1962年から続くロングセラー商品として東北地区で愛されている銘菓である。このせんべいを製造している企業が酒田米菓株式会社。山形県の庄内産の米を活用することや、せんべい工場を観光地として活用するなど、地域活性化にも貢献しながら事業を推進している。「『おいしい』だけではなく、『課題解決』につながるせんべいをつくる」ことを大切にし、日々挑戦を続けている企業だ。創業者の想いを守りながらも酒田米菓に新しい文化を創造し続けている佐藤社長に酒田米菓について詳しくお話を伺った。
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酒田米菓株式会社
代表取締役社長佐藤 栄司
庄内平野は、米作りに最適な水・大地・気候に恵まれた環境で、古くから美味しい米どころとして知られています。米作りの歴史も古く、昔から良質の米の産地だったことが伺える様々な記録が残されています。
「コシヒカリ」「ササニシキ」「あきたこまち」「ひとめぼれ」など現在に至る良食味ブランド米も、実はそのもとをたどると庄内で生まれた「亀ノ尾」「森多早生」にあたります。
米と共に歩んできた庄内は、現在のお米の基礎となり、今もなお本物のお米の美味しさを運んでくれているのです。また、昔から変わることなく広がる美しい田園風景は、庄内の豊かな自然の恵みを表しています。
酒田米菓(株)のおせんべいは、素材にこだわり地元山形県庄内産をはじめ、全て国産のお米を使用しています。皆様に安心して召し上がって頂ける、安全な商品をお届け致します。自然由来の素材を使用した商品も製造しております。
目次
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
良いと思ったことは言う、「やらない」と言わない
「我々は自分たちがつくりたいものをつくるのではない」と、 佐藤社長が話す言葉の裏には「お客様ファースト」という想いが詰まっている。酒田米菓は徹底的にお客様のことを考える会社。そのため「立場に関係なく良いと思ったことは提案すること」「『やらない』という言葉は使わないこと」が酒田米菓らしさになっている。自身が社長に就任してからは、これらの考えを浸透させるために、会社の方針や基準を全社員に共有し続けてきた。その結果、今では営業担当が顧客から頂いた意見を商品開発に反映させること、若手からの意見も大切にすることなどが、会社のスタンダードとなっている。「仕事をする上で大切なことは、自分たちがつくりたいものをつくることよりも、お客様の要望に応えること。お客様と会っているときに『やれません』という言葉は絶対に使ってはいけない」と佐藤社長は話す。今では、開発に1年以上かかるとしても、お客様のためになるのであれば、まずは挑戦をするという文化を大切にしている。
高度な技術を生かし、課題解決をしていく
酒田米菓が持つ技術力は「薄焼き」にある。せんべいづくりの難しさは製造過程で割れてしまうことであり、割れたせんべいは商品価値が無いものに等しい。世の中の一般的なせんべいの厚さは1cm前後に対し、酒田米菓のせんべいは、わずか「3mm」の極薄に焼き上げる。極薄せんべい製造の技術力については同業者からも称賛されているほどで、極薄でせんべいにしか出すことができない食感や味わいを、創業以来守り続けている。そして、酒田米菓が大切にしていることは、課題解決ができるせんべいであり、業界の中でもひときわ輝きを放つ。せんべいによる課題解決の1つの例が、健康面のサポートである。せんべいを噛むという行為を通じて健康増進につなげることや、スポーツの際の補食として体づくりの手伝いをすることにも力を入れている。高度な技術を生かしながら、課題解決という新しいフェーズのせんべいの開発と製造を酒田米菓は続けていく。
せんべいを通じて世の中を豊かにする
「健康の増進や雇用の創出につなげられる可能性をせんべいは秘めている」と話す佐藤社長。現在、酒田米菓は地元の予防歯科の先生と協力して、噛むことを通じた健康な体づくりや、食アスリート協会と協力して腸内環境に考慮した製品の開発を進めている。また、せんべいをつくるという仕事は米を農家から買う必要があるため、日本の農業を守ることができる。さらには、その農家の仕事や、せんべいをつくるという仕事によって、雇用が生まれ、地域を守ることができる。「自分は東北の地で育てられたからこそ、この地元の雇用を守るのは自分たちの使命」と話す。佐藤社長には、せんべいづくりは社会貢献に繋がる仕事であると自信と確信を持ち「世界中の人が酒田米菓でせんべいを焼く技術を学び、地元に持ち帰って技術を生かすことで、せんべいを通じて地元に貢献する人を育てたい」と未来を見据えて挑戦を続けている。
伝統を守りながらも時代対応をしていく
社長に就任してから挑戦してきたことを教えてください
「会社の改革が必要。社員全員から辞めると言われたとしても、この会社を進化させる」という覚悟を持って社長に就任したのは7年前の話です。当時は、赤字経営且つ、会社が変化を恐れているという状況でした。当時挑戦していたことは、社員が同じ方向を向き、ともにビジョンに向かって進み続けられる組織をつくることです。そのために、全社員が会社の方針、基準、年度目標などを記載している事業計画書を見て朝礼をすることで、社員が同じ方向を見て仕事ができるようにしていきました。当時は、私の考えについてくることが大変だと感じていた社員が多かったと思います。今では、方針や目標を大切にする社員が増え、毎週のように試作品をつくるなど、社員と共に会社の目指す未来に向かっている実感があります。
仕事をする上で大切だと思うことを教えてください
「学んだことを体得できるまで学び、挑戦し続けること」が本当に大切だと思います。私自身、もともと別の会社を経営していた経験がありましたが、会社の規模や業種も違いました。酒田米菓の社長に就任した際に、今までのやり方では通用しないと感じ、勉強会やセミナーに参加して学ぶようになりました。また、健康について学んだことが新しい事業につながるなど、常に新しい学びを取り入れることが会社の発展につながっています。世の中の課題解決を大切にしている弊社にとっては、何歳になっても学び続けることが必要です。今では、社員10名以上と共に外部の勉強会に参加するなど、世の中の変化に対応できる会社であり続けるため、日々学びを深めています。
これから新たに挑戦していきたいことを教えてください
米を原料にしたトレーやストローの製造をしようと考えております。SDGsという言葉があるように、今の世の中に求められていることは、持続可能な社会をつくることだと思います。そこで活躍するのが米です。米を原料にしたトレーやストローであれば、使用した容器類をゴミにするのではなく、ペットの餌にすることや土に返すことができます。米を原料にしたストローに関しては、ベトナムで偶然見つけたもので、まだ日本では流通していないものでした。自分たちが先頭に立って環境問題を解決する取り組みを進めるチャンスだと考え、製造メーカーと長い交渉を重ね、独占販売契約も締結することができました。環境問題の解決につながる商品をつくる技術を確立し、いずれは世界へと展開していきたいです。
せんべいには 人を集めるチカラがある!! 賑わいのある空間を つくりだしています!
東北で愛され続ける銘菓 『オランダせんべい』 味の種類は5種類以上!! 詳しくはHPで!
酒田米菓が誇る薄焼きせんべい せんべいをつくる施設を大公開!!
酒田米菓の未来をつくる 後継者としての覚悟

酒田米菓株式会社 企画室 プロダクトマネージャー 兼経営チーム 佐藤栄人
「子どもの頃の記憶で、創業者の優しい姿をたくさん思い出す」と言う、企画室プロダクトマネージャー兼、経営チームに所属し、後継者候補として酒田米菓を支える佐藤栄人様。現在、佐藤社長の右腕として商品開発の中核を担っている。高校卒業後はオーストラリア留学、飲食店の仕事など、様々な経験を積みながら、約5年前に酒田米菓に入社。現在はプライベートブランドやOEM(他社ブランド製品の製造)の企画や商品開発、観光部署の仕事をする傍らで、経営チームとして酒田米菓の経営にも携わっている。現在29歳と、この先の酒田米菓を背負う存在として、父である社長と共に日々挑戦を続けている。元高校球児であり、野球一筋、甲子園に出場した経験も持ち、やるからにはその道を極める生き方を続けている佐藤様に、酒田米菓について詳しくお話を伺った。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
オランダせんべいを残していくことが使命
「オランダせんべいを残していくことが使命」と力強く話す佐藤様。しかし、学生時代は甲子園に2度出場するほどの野球漬けの毎日を送っており、将来、酒田米菓で働くことは考えてなかったという。高校卒業後は、オーストラリア留学、東京の飲食店での仕事を経て、父(現社長)が当時経営していた会社で働く際に地元に戻ってきた。留学先のオーストラリアに、オランダせんべいの工場があったこと、日本ではオランダせんべいのCMが流れていたことなどが起因し、「これだけ有名なブランドを残さないわけにはいかない」という使命を感じるようになった。父が急遽、酒田米菓の社長になったことで、その数年後に自身も酒田米菓に入社。当初はだんごの製造をしていたが、今では製造に限らず、商品開発の中核を担い、イベントの企画や観光にもかかわる仕事をしている。
お客様のために提案し続ける
「せんべいは嗜好品ではなく、必需品」 これは佐藤社長の言葉だというが、この言葉の意味を常にかみしめながら仕事をしている佐藤様。そんな佐藤様は、「お客様のためにという視点を持ち、より良い商品をつくるために、自ら提案できることにやりがいを感じる」と話す。OEMであってもその考え方は揺らがないという。取引先からいただいた要望に加え、お客様のためになると思ったことはすべて提案していくことを大切にしているという。お客様の要望に対しては「NO」と言うことは一切なく、常により良い提案をしていくことを心がけている。お客様と直接関わっている営業担当からの声を取り上げ、企画室のメンバーで新しい提案をし、日々新しいアイデアを考え続けている。試作をする際は、味だけではなく、持ちやすさ、食べやすい長さなど、細かいこだわりを大切にし、「この商品はお客様のためになるのか?」という視点を持ち続けている。
使命を成し遂げるために自分が先頭に立つ
「世界や地域にとってなくてはならない存在を目指す会社で代表を務める」 。創業者の想いを守りながら、常に挑戦を続けている会社の代表にかかる重圧は、どれだけ大きなものなのかは計り知れない。佐藤様はそんな重圧を乗り越えていける存在を目指している。酒田米菓が目指しているのは、ブランドが地域にとっても世界にとってもなくてはならない存在となること。自分自身がそれを目指す上で、先頭に立てる存在になることは必須だと考えているという。そのために「自分自身が夢を語り、ビジョンを見せ、社員がついていきたいと思える存在になりたいんです」と佐藤様は語った。 また、自身が2年間海外で留学をしていた経験を生かし、自分自身が輸出など海外とのやり取りにおいては先頭に立っていく覚悟があるという。将来的には、海外の人に酒田米菓で働いてもらい、そこで身に着けた技術を地元に持ち帰ってもらい、現地の米を使って、現地でせんべいを生産してもらえるように、そんな取り組みをしたいという。技術を出し惜しみせず、世界に向けて挑戦をしていく存在として佐藤様はこれからも挑戦を続けていく。
空港のイベントでは 酒田米菓の名物マスコット 「オランダちゃん」が 笑顔でお出迎え!
なんと、せんべいの製造過程を 生で見ることができるんです!! 観光工場「オランダせんべいFACTORY」へようこそ!
「酒田米菓のせんべいを残したい!」 そんな思いで商品を展示!
酒田米菓の誇りを胸に、日々挑戦する
これからつくっていきたい商品について教えてください
何百件という案件に携わってきて、簡単につくれる商品ほど売上は伸びないと思いますし、お客様のことを本気で考えて時間と労力を割いた商品であってこそ、世の中から必要とされる商品になると思います。だからこそ、アイデアを練り続け、満足いくところまで突き詰めた商品をつくっていきたいです。
また、今の主力顧客は50代以上の方ですが、もっと若い人にもヒットする商品をつくっていきたいです。「今までの伝統を残しながらも、これからの時代を担う若い人にとって必要不可欠な商品とは何なのか」 これを考えるには、若い人からの意見が大切だと思っていますし、若い人にリーチするようにSNSやYoutubeを活用するなどの工夫も進めています。
せんべいについて構想していることを教えてください
地球温暖化の要因の1つとして挙げられている、牛、豚、鳥などの家畜における、植物の大量消費や排せつ物の問題があります。多くの商品開発をしていく中の1つに、せんべいを通して環境問題の解決につなげることを構想しています。現在、商品開発しているのが「コオロギ」を練りこんだせんべいです。コオロギはタンパク質が豊富に含まれているサステナブルフードと呼ばれる存在であり、地球温暖化の問題を解決する取り組みになると考えています。山形県新庄市にある工場でコオロギを養殖し、気軽に食べることができるせんべいという商品によって、タンパク質という栄養補給につながると同時に、環境負荷の少ない食品製造の先頭を走ることができるというチャレンジをしています。
酒田米菓で働く上での、ご自身の使命は何だとお考えでしょうか
自分自身、酒田米菓の商品が本当に好きで、「酒田米菓を残していくこと」「ブランドを世界に広めていくこと」が自分の使命だと思っています。今は社長の後を継ぎたいという感情よりも、自分が継がないといけないという責任感が強いですね。質の良い米を原料としているからこそ感じられる米の風味や、お客様のことを本気で考えて、必需品と言われるようなせんべいを開発し続けている文化は、絶対に残さないといけないと思います。そのためには、社長のように熱意を持って発信し続けられる存在になりたいですね。まずは結果を残し続けることで、自信をもって「自分が先頭に立ってやる」と言えるように日々精進していきます。
担当者からのコメント
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監修企業 担当者
この度は取材にご協力いただき、誠にありがとうございました。
創業者の想いを大切にし会社の文化をより良いものにしてきた佐藤社長と、後継者候補としての覚悟をもって仕事に臨む佐藤プロダクトマネージャーのお話を伺い、私自身も胸が熱くなる時間になりました。酒田米菓が世界を引っ張る存在となることを心より楽しみにしております。
掲載企業からのコメント
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酒田米菓株式会社 からのコメント
取材していただき、誠にありがとうございました。 自分の想いを話す場をいただいたことで、改めて自分たちの向かう先に対する確信が強まりました。酒田米菓の伝統やブランドを残していくためにこれからも挑戦し続けていきます。
企業情報
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創業年(設立年)
1951年
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事業内容
米菓および生地(せんべい、だんご他)製造販売業、OEM事業、観光事業、テレアポ事業 他
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所在地
山形県酒田市両羽町2-24
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資本金
6000万円
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従業員数
71名
- 会社URL
沿革
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1951年~1979年
1951年
創業
1962年
欧風せんべい“オランダせんべい”を開発・発売
1967年
“鏡せんべい”を発売
1968年
第17回全国菓子大博覧会において“オランダせんべい”が名誉総裁賞受賞
工場長さ450M、工程全長750M、玄米から製品までの-貫工場完成
1970年
東京営業所開設
1972年
厚生会館竣工
1976年
優良施設として厚生大臣賞を受賞
1978年
“巻貝せんべい”を開発
仙台通産局より新技術改善補助金交付
ラグーン式排水処理施設竣工
1979年
ケルン国際菓子見本市に出品 -
1981年~1996年
1981年
創業30周年記念式典開催
原料米保管用低温倉庫竣工
1987年
社長佐藤栄一が黄綬褒章受賞
1988年
佐藤茂が社長就任
クリーンルーム設置
新感覚米飯加工品おいしんこ製造
1993年
八幡新工場竣工
1994年
新分野進出事業に認定される
会長佐藤栄一が山形県産業賞受賞
“四季の山”発売
1995年
せんべい工房凡坊屋開店
(株)おいしんこが創造的事業活動推進事業に認定される
1996年
“四季の山”全国観光土産品連盟会長賞受賞
地域技術起業化助成事業として、サンパレットシステムを開発 -
2000年~2018年
2000年
創業50周年
2001年
ありがとう創業50周年消費者キャンペーンの実施
2002年
八幡工場 保税工場として認可(2月)
佐藤洋が社長就任(12月)
2005年
新ロゴマーク制定
庄内空港にイメージ看板設置
オランダ・鏡のサンプリング開始
2006年
ありがとう創業55周年キャンペーン実施
工場名を「本社最上川工場」と「鳥海山麓工場」に改訂
2007年
第29回食品産業優良企業等表彰 農林水産省総合食料局長賞受賞
鳥海山麓工場 新生地工場竣工
2014年
佐藤栄司が社長就任(11月)
2015年
「オランダせんべいFACTORY」オープン(8月)
2017年
S-PAL仙台本館地下1階に直営店「元祖うすやきせんべい 酒田米菓」オープン(2月)
本社工場にてFSSC22000 米菓製造において認証取得(3月)
創業65周年記念式典開催(11月)
鳥海山麓工場 FSSC22000認証 米菓製造において認証取得(11月)
創業65周年記念式典開催(11月)
S-PAL山形2階に直営店「遊友結」オープン(11月)
鳥海山麓工場 FSSC22000認証 米菓製造において認証取得(11月)
せんべいに食用インクを用いての印刷可能なフードプリンター導入
2018年
酒田市中町事務所にテレアポ事業部 設置(5月)
せんべいモザイクアートでギネス世界記録認定(10月)
S-PAL仙台本館地下1階 直営店名を「遊友結」に変更(11月)
取材趣旨:企業インタビュー