取材趣旨:企業インタビュー
兵庫県神戸市に、世界で一番「珍味」を愛する会社がある。素材と製法に拘り、おいしさを追及する企業、株式会社伍魚福だ。同社は食品の加工製造を主な事業として創業し、食生活の向上と共に、イカなど魚介類の製造加工品である珍味の販売を始めるようになった。1955年に「株式会社伍魚福」の前身として再発足した「有限会社五魚福」。現代表の山中勧氏は創業者である父の背中を見て育ち、物心ついた時から自然と“将来は会社を継ぐ”という意識を持っていた。2006年に代表取締役社長に就任してから現在に至るまで、自身が理想とする“良い会社”に一歩でも近づこうと奮闘している。そんな創業65年を越える、歴史の紆余曲折と今後の展開について伺った。
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株式会社伍魚福
代表取締役社長山中 勧
お客様に価値のある商品・サービスを提供し、
伍魚福に関わる全ての人に貢献する。
【価値のある商品】
おいしい・新鮮・安全・安心・フェアプライス
【価値のあるサービス】
早い・間違いない・納期厳守(欠品がない)・誠実で心地よい顧客対応
顧客の役に立つ提案(売れる売り場作り)
【クレーム対応】
迅速で誠実な対応を行い、伍魚福のファンを作る。
発生の原因を突き止め対策を講じ、クレームゼロに挑戦する。
【伍魚福に関わる人】
従業員・家族・消費者・お得意先・協力工場・協力会社・地域・社会
目次
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
風通しが良い、それが伍魚福の社風
「風通しが良い会社」が社風と語る山中社長。この社風が形成されたのは役職問わず、新商品のアイデアにおける発言権を持つことが理由のひとつであるという。実際にコンビニエンスストアで販売し、伍魚福でも一番売れている「クリームチーズ生ハム包み」は女性社員の発想から生まれた商品である。この商品は最初、チーズ生ハムサンドウィッチと提案されていたが、一度提案は却下されていた。しかし同社には「敗者復活制度」というものがあり、一度却下された商品をもう一度吟味している。この取り組みのおかげで、「クリームチーズ生ハム包み」が誕生したのだという。年齢関係なく発言できることは、同社を成長させるためにも必要な要素なのだろう。また、エンゲージメント調査を取り入れ、働くメンバーにとって、おもしろい会社かどうかを把握している。そうすることで、職場環境の今を把握し対応。自由な発想や発言ができる会社づくりを心掛けている。
「豊富な種類の珍味をお客様へ提供できること」これが伍魚福の独自性
豊富な種類の珍味をお客様へ提供できることが強みだと語る。1950年にスルメ加工業として創業し、酒販店をメインに酒の肴、珍味を卸し、販路を拡大してきた。現在は400種類以上の商品からお客様のニーズに合わせた提案を行っている。これは、顧客と二人三脚で同社が積み上げた結果である。例えば、以前、お客様や店主から酒に合う肴のリクエストが頻繁にあった。そのリクエストに趣向を凝らし、時にはパートスタッフのアイデアも採用することで応えてきた。確かに売れる商品ばかりではなく、売れない商品もあったが、売れる商品に関してはそのまま採用し販売している。そのため、商品の種類やアイテム数がどんどん増えていったのだという。顧客と二人三脚で発展していくのも、同社のスタイルであり、努力のたまものである。
日本の食品業界における良いスパイラルの起点となる
伍魚福が目指すのは、日本の食品業界における良いスパイラルの起点となること。これは伍魚福に直接的、あるいは間接的に関わるすべての人に、良い影響を与えたいという想いから掲げたものである。なぜ山中社長はそのような想いを持つに至ったのか。それは現在、伍魚福が健全な経営を行えているのは、エンドユーザーはもちろんのこと、関係する全ての方の協力のおかげだと考えているからである。食品業界における良いスパイラルの起点になるためには、人材育成が必要不可欠だという。山中社長一人だと、できることは限られている。そのため、同じ方向を向き、共に走る仲間が多く集ってくれることを願っている。お客様を思い、感謝を忘れることなく邁進する同社は、日本の経済により良い影響を与え、日本にとって欠かせない存在となっていくことだろう。
伍魚福が大切にしていること
伍魚福の社名の由来を教えてください
占い師から「五種類の魚を飴で炊いて売れば儲かる」と助言いただいたことがきっかけで「五魚福」という社名が生まれました。それが変化し現在の「伍魚福」に。命名した当時は全く儲からず、試行錯誤を繰り返していましたが、スルメの加工品にウニのペーストを塗って乾燥してカットして「ウニ松葉」という商品を販売したところ、その商品がヒットし軌道に乗りました。「信じる者は救われる」ということわざがありますが、占い師の方を信じた結果、成功へのきっかけが掴めたと思います。当時、あの占い師が本物の力を持っていたのかどうか知る由もないですが、きっかけをつくってくださったことは間違いないので、素直に感謝しています。
伍魚福の創業の経緯を教えてください
私の祖父が製茶業を営んでいましたが、1939年に倒産。その後、祖父の「人脈」や「つて」でいつの間にか、スルメを加工し販売していました。しかし、事業があまり上手くいかず、売上を伸ばすことができなかったため、1953年に再度倒産しました。見兼ねた祖父の息子2人が手伝うことになり、再出発することになりました。実は長男が初代社長の「山中直次郎」で、次男が2代目社長であり現名誉会長の「山中勉」です。祖父の意思を引き継ぎ、2人の息子が躍動したことにより、現在の伍魚福があるのだと思います。
今後の事業展開でどんなことがポイントになるのか教えてください
今後の事業展開でポイントとなることは「設備」と「品質」の体制を整えることだと思います。現在はスーパーや酒屋に加え、コンビニエンスストアとの取引が増えてきたりと、お客様の数が増えてきました。そのため、手作業で行っている部分や、大量生産の品質維持には、より一層改革が必要だと考えています。最新の設備を投資したり、人員を増やすことも必要になるでしょう。ホールディングス化や事業拡大も合わせて考えているため、今まで以上に「TEAM GOGYOFUKU」で一致団結して頑張りたいですね。
商品勉強会を行う様子
伍魚福自慢の商品
社屋と社用車
伍魚福の商品を全国区へ会社の未来を担うキーパーソン

株式会社伍魚福 お客様繁盛係(営業)伍々明
今回取材したのは、2001年に入社した伍々氏だ。伍魚福に入社したのは運命的であったと語る伍々氏は、営業に対して強いこだわりを持ち、会社の利益に貢献している。自身に与えられたミッションは、伍魚福の商品を如何にして広めるかを考え、自分が納得できるまでこだわり抜いた営業を行うことだという。「珍味」といえば「伍魚福」と世の中に広まるまで歩みを止めることはないと意気込む伍々氏に、営業の極意、そして伍魚福の魅力について語ってもらった。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
伍魚福に入社したのは運命的であった
2001年、就職氷河期で有効求人倍率が0.59まで落ち込んだ。そんな時に就職活動を行っていたのが伍々氏である。当時、なかなか就職活動が上手くいかず、悩んでいる中、1通のダイレクトメールが伍魚福から届いた。普段は見向きもしないダイレクトメッセージに興味を惹かれたのは、自身の苗字「伍々」の「伍」の字が社名に使われており、まさに運命的な出会いに感じたからだという。その後、説明会で出会った、当時社長(現在は名誉会長)の山中勉氏の人柄に惹かれたことと、説明会後に食べた伍魚福の商品(一夜干焼いかとカマンベール入りチーズ生包み)が絶品で衝撃的だったことも入社理由となった。この商品を扱っている会社であれば、必ず伸びると安心し、入社を決意した伍々氏は、素晴らしい商品を世に広めるためのチャレンジを続けている。
「商品をより売れるようにすること」これが伍々氏のやりがい
「商品をより売れるようにロジックを立て、お客様に提案すること」がやりがいと語る伍々氏。同社の営業は「商品の良さ」や「価格」を伝えるだけではなく、「売り場の提案」も行う。最初はどうロジックを立てて提案して良いかわからず、悩みの種であったというが、自身の研究に基づき効果検証を繰り返すことで、少しずつ成功を納め、次第にやりがいへと変わっていったのだという。現在はエンドユーザーの目に留まり、伍魚福の商品に合わせた、より売れる「売り場づくり」を行うことが何より楽しいのだという。世の中のニーズは目まぐるしく変化し、以前まで成功していた方法が通用しないこともしばしば起こる。しかし「成功の法則がないからこそ面白い」そう考える同氏は、日々、積極的に勉強し、自身の知識や技術を深めていくことで、お客様が喜ぶ商品を提供し続けていく。そんな伍々氏に仕事人としてのあるべき姿を垣間見たような気がした。
世の中に伍魚福の商品を広めるために
「珍味と言えば伍魚福。そうなるように、営業マンとして世の中に伍魚福の商品を広めたい」と伍々氏は意気込んでいる。伍魚福の商品は確かに生活必需品ではない。しかし生活をより豊かにするためにはとても必要な製品を扱っていると自負する。「ハレの日」など、人々が羽を伸ばして飲みたいと思う日に、より充実するアイテムとして活用してほしいと願っているのだ。だからこそ、営業マンとして、現在よりもっと多くの店に伍魚福の商品を置きたいのだという。そのためにも、「営業技術」、「出荷体制」、「物流体制」の向上はこれからの課題と感じており、社をあげて改革するべきだと考えている。仕事を進めながら、経営視点で課題を感じ取れる伍々氏は、今後の同社を成長させるためにも欠かせない存在となっている。
お客様に提案する様子
商品の陳列や配置にも、こだわりを持つ伍々氏
事務作業も俊敏にこなす伍々氏
伍魚福の未来を担う伍々氏の想いとは
説明会の時に惹かれた山中名誉会長のことを教えてください
山中名誉会長はカリスマ性があり、当時から社員を引っ張ってくれる存在でした。高い熱量で社員を引っ張ってくれますし、商品開発も先見の明で様々な商品を世に送り出してきました。例えば90年代の大型酒販店拡大の前から、いち早く「要冷蔵の珍味」を生み出したのは山中名誉会長です。会社の土壌をつくり、発展してきたのは間違いなく山中名誉会長の力が大きいと思います。我々はその魂を受け継ぎ、全社員で力を合わせて会社を発展させていく使命があると思います。山中名誉会長が安心して任せられるような会社づくりをこれからも行っていきたいですね。
どんな方が入社すると伍魚福はもっと伸びると思いますか?
弊社の商品はメインユーザーが女性です。そのため、女性社員が増えることで商品アイデアや商品販売の面で活躍できると思います。実際に、売り場の提案や商品開発など、パートの女性から意見をいただくこともしばしばあります。最近は「インスタグラム」や「ツイッター」など、SNSも普及してきたため、SNS映えを狙った商品などにも注力していきたいと考えております。弊社がこれから発展するためには男性だけでなく女性が活躍できる環境づくりもひとつのカギになってきます。
今後の展望を教えてください
現在よりも、たくさんのお店に伍魚福の商品を置いてもらいたいと考えております。知名度や認知度もまだまだ上げていかなければならないと思っています。そのためにはお客様との接点を増やすことが必要だと思います。やっぱり直接、消費者の方から「美味しいです」や「味付けが最高だね」など、喜びの声を聞けることは嬉しいですし、これからも頑張ろうって気持ちになります。自分よがりの製品は売れないと思いますし、お客様のためを考えながらつくった商品は想いが宿るため、売れると思います。これからもお客様に喜ばれる製品を世に送り続けたいですね。
担当者からのコメント
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監修企業 担当者
本日は取材にご協力いただき誠にありがとうございます。「珍味」に対する想いや今後の展望を伺うことができ、食に対して知識を広げるきっかけとなりました。また会社を通じて、同社に関わるすべての人を幸せにしたいという山中社長の考えに感銘を受けました。今後さらなる発展を遂げていく同社に注目していきたいと思います。
掲載企業からのコメント
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株式会社伍魚福 からのコメント
この度は取材頂きありがとうございました。 今後も新しい中期経営計画のスローガン「日本の食品業界の良いスパイラルの起点となる」の実現を目指して努力を続けます。 珍味をご利用の際は「伍魚福」商品を手に取っていただければ幸いです。
企業情報
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創業年(設立年)
1955年
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事業内容
味を創造する高級珍味の製造卸
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所在地
兵庫県神戸市長田区野田町8丁目5番14号
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資本金
1,000万円
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従業員数
75名
- 会社URL
沿革
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1945年~1989年
1945年頃
山中正親が神戸でスルメ加工業を創業。
1953年
山中直次郎、山中勉が神戸で再創業。
1955年
「有限会社 五魚福」設立、初代社長に山中直次郎。
1964年
酒販店ルートに販路拡大。
1966年
山中勉が社長に就任。
1970年
「株式会社 伍魚福」に改組。
1971年
鉄道弘済会(キヨスク)との取引き開始、「いかなごのくぎ煮」商品化。
1987年
「いかなごのくぎ煮」商標登録。
1989年
物流センター竣工、チルド珍味「酒の肴全国津々浦々」発売、「ふるさと小包」取引き開始。 -
2003年~2018年
2003年
東京チルドセンター稼働、第1回「いかなごのくぎ煮コンテスト」開催。
2006年
山中勉会長、山中勧社長就任。
珍味情報誌「GOGYOFUKU MUSEUM」発行。
2012年
第1回「家飲み川柳」実施。
第1回「いかなごのくぎ煮文学賞」実施。
2013年
阪神百貨店梅田本店に直営店出店。
駒林神社に「いかなごのくぎ煮発祥の地」石碑建立。
2015年
設立60周年。
2018年
地域未来牵引企業受賞(経済産業省)。
取材趣旨:企業インタビュー