取材趣旨:企業インタビュー
1964年に創業し、電気蒸しタオル器と酒燗機のメーカーとして業界を牽引してきたタイジ株式会社。創業の精神「会社の発展と社員の幸福が一致するよう努力しみんなが豊かになろう」を守りつつ、リーマンショックや大災害など幾多の試練を乗り越えてきた。そして、今では、タオル蒸し器や酒燗器だけにとどまらず、ショーケースやランプウォーマーなど”ホスピタリティープロダクツ(おもてなしをカタチにする商品)メーカー”としての地位を確立した。それが、堀江社長だ。社長就任後、新製品の開発や海外進出など新たな挑戦を続けてきた堀江社長にタイジの成長してきた秘訣とこれからの未来を聞いた。
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タイジ株式会社
代表取締役社長堀江 裕明
現在「新興国」と呼ばれている国々の経済がさらに発展し、成熟期に入っていけば、私たちの「ホスピタリティー」製品に対する需要は、さらに伸びていくでしょう。
日本で培われた私たちの「ホスピタリティー」は、世界中で歓迎されています。
ただ、日本仕様の「ホスピタリティー」製品をそのまま海外に普及することには、必ずしもこだわっていません。
「ホスピタリティー」には、国や文化ごとに違ったスタイルがあるはずです。
将来は、それぞれの国や文化のあり方に合った「ホスピタリティー」機器を開発し、お届けしていくことができればと考えています。
それが、本質的な意味で日本の「ホスピタリティー」を世界に広めることだと思います。
今後もタイジは、独自の「ホスピタリティー」製品を通じて、豊かな社会の創造に貢献しながら、社員が共に成長し幸せになっていける会社を目指して参ります。
目次
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
自発性を持った社員たち。自分たちでつくるタイジ
取材時、同社の商品カタログを見せてくれた。掲載されている商品の数は、100種類以上にのぼる。このように毎年、必ず1つ以上の新商品をリリースしていると語る堀江社長。実は、この新商品たちは、タイジの社員たちが自発的に企画し、提案してきたものばかり。開発部の人間だけでなく、営業部の人間も自発的に商品提案をするのが同社の日常である。 この自発的に企画をする風土がタイジの持続的な成長を支えてきた。「会社はとにかく”人”。考えてもらうための仕組みづくりは社長の仕事ですけど、社員が頑張ってくれないと会社は続きませんからね。これっきゃ言えないです」と堀江社長。社員目線からも企画のアイデアを出していくことによってより質の高い商品が生まれていくそうだ。また「社長一人では何もできないです」とも言い切ってくれた。堀江社長の社員に対する信頼の厚さが見てとれる。創業以来、脈々と引き継がれてきた、社員が自分たちで自発的に新しい商品を企画する風土が、タイジをつくってきたと言えるだろう。
「温めること」これこそが強み
「実は、当社の商品は絶対になくてはならないものではないんですよ」と堀江社長。言われてみるとタイジの商品は、店舗を運営をする上で”あれば”助かる・嬉しいものが多い。飲食店でタオルが出てきた時、常温でもお客様は怒らない。ただ、温かいタオルだと嬉しい。スーパーで陳列されているお惣菜を買う時、常温でもお客様は怒らない。ただ、温かいお惣菜だと嬉しい。そのふとした嬉しさ、喜びづくりが同社の付加価値である。それはさりげない心配りを行う日本のおもてなしの心にも繋がっているのではないだろうか。このように温める機器によって、『おもてなし』をつくっているのが同社の商品の特徴であり、実は日本で数少ない企業でもある。 そのニッチな分野で長年こだわり、事業を行ってきた背景には、経営理念にもあるホスピタリティー(=おもてなしの心)という考えがある。この考えを商品開発に繋げていくこと。そこにタイジの独自性、強みがあるのだ。
”おもてなしの心”が世界に広がる
昨今のメディアでも、日本のおもてなしやホスピタリティーの心がサービス産業の発展によって海外に広がっているということは頻繁に取り上げられる。その心をカタチにして、海外に広げているのがタイジの商品であるのだ。今や日本では、飲食店で温かいタオルが出てくることに驚きはないが、世界の国々ではタオルを出すことすら珍しいのだという。日本のおもてなしやホスピタリティーが世界に認められ始めている今、タイジの商品を必要とする国は確実に増えていく。そこに今後のタイジの狙い目がある。最近では、デザートアイス、シャーベットをつくるためのフローズンマシーンなど海外商品の輸入販売も行っており、海外との取引を積極的に行っている。タイジの商品が世界に広がっていくこと。それは、タイジが大切にする「おもてなしの精神」が世界に広がることに繋がっていく。今後のタイジの成長を見届け、おもてなしの精神が世界に広がりゆく末を是非見てみたいものだ。
ホスピタリティープロダクツの真髄
業界のパイオニア企業として、生き残ってきた秘訣は
この業界の商品は、家電製品のように発売してもすぐには当たらないんですよ。また、家電製品などは、サイクルが速いから急激にヒットして、あっという間に廃れる傾向にありますけど、この業界の商品は息が長いんです。また、良い商品をつくれば、口コミが業者間で少しずつ広がっていき、商品をリリースして2~3年後からじわじわ伸びていきますしね。それ故、息の長い商品をつくる必要があるため、商品開発・企画力が欠かせません。当社でも社員からの新商品提案を募るなど、全社をあげて商品開発・企画に取り組んでいます。長い目で見られる業界だからこそ、本当に良いものをつくる必要があります。
なぜ電子タオル蒸し器をつくろうと思ったんですか
弊社は、1964年、おしぼりタオルの電気式蒸し機メーカーとして創業されました。 実は、弊社が電気式タオル蒸し器を開発するまで、おしぼりを蒸す手段は、ガスの蒸し器ぐらいしかありませんでした。 ガスの蒸し器でおしぼりを蒸すのは、たいへん手間が掛かります。そのため、熱いおしぼりを出す「おもてなし」は、ごく一部の高級料亭などでしかされていませんでした。そこで、弊社が開発した電気式タオル蒸し器は、お客様に熱いおしぼりを出すための手間とコストを、画期的に軽減したのです。その結果、熱いおしぼりを出すという「おもてなし」の習慣自体が、日本中の飲食店に行き渡り、弊社の商品力が全国に知れ渡ることになりました。
最近では、暖かさ以外のホスピタリティーも意識しているみたいですね
弊社は、店舗・施設で、さまざまな「ホスピタリティー」を支える製品を開発し続けています。 例えば、温かい物は温かいまま、冷たい物は冷たいままお出しするという「ホスピタリティー」。ドリンク類やデザート類を、その場でつくってお出しするという「ホスピタリティー」。機器のデザイン性を高めることで、視覚的にも上質の体験をしていただくという「ホスピタリティー」。フーズウォーマー、フーズクーラー、冷蔵・温蔵ショーケース、カップウォーマー、酒燗機、フローズンマシン、ドリンクディスペンサーなど、製品のラインナップは年々拡大を続けています。創業からの「ホスピタリティー」を軸にしつつも様々な商品展開でできることを増やしていきたいですね。
毎年開催される経営方針発表会
海外進出にも積極的だ
おもてなしをカタチにする生産ライン
仕事は楽しく商品にこだわりを

タイジ株式会社 開発部技術課 小林健太郎
「電子蒸しタオル機と言えば、タイジ」と言われる程、業界内では言わずと知れたタイジ株式会社。50年の歴史の中でサービス用機器をメインに商品を開発し続け、現在ではホスピタリティープロダクツとして、電子蒸しタオル機だけではなく、フローズンマシーンやジェラートマシーンなどの新商品の開発も手がけている。毎年、必ず1つ以上の新商品を開発するという会社方針があることもあり、タイジでは、これまで150個以上に及ぶ商品開発をしてきた。そのタイジにあたって入社当時、開発チームがたったの3名だった頃から最前線でタイジの商品開発を牽引してきたのが小林さんだ。今回の取材を通して、商品開発に対する思いとタイジという会社の魅力に迫る。
伝統の承継と挑戦の未来を担う社員の思い
開発プロセスの全てに関わる仕事
「オリジナルの電器製品を開発し、また全ての過程に携われるところに惹かれました」と語る小林さん。タイジの製品開発は一つの製品を一人の技術者が担当する体制で進む。担当技術者は、製品コンセプトの練り上げから、デザイン、3次元CADによる設計、部品選定、性能試験、生産設計、取扱説明書の作成まで、開発プロセスのすべてを担当するのだ。 ここにユーザーから信頼を勝ち得ている秘訣がある。一人の担当技術者が開発プロセスの全てを見ている分、仕様変更などの要望にも、柔軟かつスピーディーに対応できるのだ。大きなメーカーでは、開発プロセスの全体を一人で担うことはないが、少数精鋭が故、自分たちで完成品レベルの設計まで行うことができる。また、かゆいところにまで手の届くサービスを展開できているのであろう。 アイデアを出すところからお客様が喜ぶところまで携わることには、苦労の分、計り知れない満足があるに違いない。これまで数百の新商品の開発に携わってきた小林さん。これからの活躍が非常に楽しみである。
何から何まで自分でできる!
”様々な仕事を任せてもらえること”これが、仕事のやりがいだと小林さんは語る。 開発担当としてタイジに参画した林さん。実は入社当時は、開発担当は小林さん含め3人しかいなかったという。今では商品開発力こそが会社の強みとなっているが、この強みの土台にはこの3人の存在がある。 小林さんの仕事は開発だけにとどまらない。小林さんが入社した当時、会社にはパソコンが1台しかなかった。このような状況を見て、小林さんは前職とのギャップを感じ、IT社会に乗り遅れていることに危機感を覚えたという。そこから社内環境整備を担当し、働きやすい職場づくりを推進してきた。更に、今では商品の広報担当も任されている。SNSを用いた情報発信に加え、海外へのイベント出展など、さまざまなシーンでタイジの商品PRの一躍を担っている。 開発、社内環境整備、広報。様々な経験を積むことにもまた現在、面白みを感じているそうだ。
楽しく仕事をすること。これが一番
「仕事は辛いだけだと続かないですし、ずっと楽しくやることが一番ですね」と笑いながら話してくれた。簡単な言葉ではあるが、楽しく仕事を続けていくのは容易ではないだろう。 小林さんいわく、仕事を楽しむ秘訣はチャレンジ。プライベートでは全く話さな性格であるという小林さんだが、「仕事には妥協を許さず、中途半端な仕事は許せない」と語る。 このプロ意識が顧客満足や商品価値に繋がっているのであろう。また、結果に繋がるからこそ楽しみにもなっているに違いない。そして「40歳になって責任感が増してきました」と小林さん。次のチャレンジは若手の育成。自分のことだけやっていてはダメだと、部下・周囲の育成にも力を入れているという。相手に伝わる方法は何か、どのように伝えたらより気持ちよく動いてくれるのか、常に考えながら育成をしているという。 仕事に対するチャレンジングな姿勢とプロ意識。これこそが仕事を楽しみ続ける要因となるのであろう。そして、この姿勢と意識がタイジの成長に繋がっていくと信じている。
電子蒸しタオル機”ホットキャビ”
イタリアンレストランに”ランプウォーマー”
カジュアルレストランに”フローズンマシン”
圧倒的な商品力の裏にある”開発者たちの想い”
社内のチーム連携を大切にしているみたいですね
ユーザー様から「こういう機器をつくってほしい」とリクエストされた時、単にリクエスト通りのものをつくるのではなく、ユーザー様の利用目的や利用環境を伺った上で、最適の提案をさせていただくところも、タイジの特徴でしょうね。また、営業チームと開発チームの垣根が低いこともタイジならではの特徴だと思います。 営業チームがユーザー様からご要望を伺うと、すぐに営業チームと開発チームが密接に連携を取り合い、「既存品の中に、ユーザー様の要望を満たせる製品はないか」、「専用機を開発するなら、どのような設計にすればユーザー様の要望を一番満たせるか」ということを検討しています。それ故、お客様に対して全方位的に価値提供をしていくことができるんです。
顧客満足のために意識していることは
うちの商品はとにかく丁寧につくられています。お客様からも"つくり"が丁寧だと評価していただいています。 おもてなしの精神が、丁寧な製品づくりに繋がっていると思いますね。例えば、お客様のために、例え一度決めたことでも改めて見直してゼロから考え直したり、第三者の目線に立って客観的に再考したり。お客様の立場に立った時にこうしたら良いのではないかという徹底的にこだわる開発者の思いが商品に込められています。 ライバル社も数社あるのですが、細かなところまで配慮しているからこそ他社とも差別化できているんですよね。 ただし、良い意味で僕は過信していません。自分を信じていません。最終的な評価はお客様ということを意識して仕事にあたっています。
これからのタイジに必要なことは
これまで発展したきた理由は、昔からしっかりしたものをつくり続けてきたことだと思います。例えば頑丈であるとか。お客様に30年以上使っていただけるものとか。実はこれまでの業界はあまり変化してきませんでした。"ホットキャビ"という蒸しタオル機が変わらずにいたことがすごく良かったと思います。 ただし、これからはそうも言っていられません。おしぼりが出ない居酒屋も増えてきた中で新たな部分への挑戦をしていかなければいけません。機能性だけでなく、デザイン性にも意識を向けなければいけませんし、様々なお客様の要望に応えられるように商品の種類も増やしていかなければいけません。
担当者からのコメント
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監修企業 担当者
堀江社長のおっしゃる「とにかく人」
取材を通して、現在のタイジは、すべて人の想い、人の努力によって積み重ねてこられたことが、伝わってきました。また、理念にもある「ホスピタリティー」を追求してきたからこそなし得た数々の「ホスピタリティープロダクツ」
今後の海外進出を通じて、日本の心を世界に広めてくれるのを楽しみにしています。
ありがとうございました。
掲載企業からのコメント
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タイジ株式会社 からのコメント
取材ありがとうございました。 タイジの商品力の背景を伝えられる良い機会になりました。 外部の皆様には、弊社の強みは商品力だと言われますが、私は弊社の強みは〝人〝だと思っています。今回の取材と通じて改めて感じたところです。 これからもより一層、社員と共に良い商品づくりに精進していきます。
企業情報
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創業年(設立年)
1964年
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事業内容
電気タオル蒸し器・食品温蔵庫・全自動酒燗器など 業務用サービス機器の製造・販売
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所在地
神奈川県川崎市川崎区東田町5-3ホンマビル
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資本金
3,250万円
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従業員数
46名
- 会社URL
沿革
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1961年~1980年
1961年
創業。
1964年
電気厨房機器の製造・販売を目的として会社を設立。
1967年
川崎に工場を増設。
1969年
大阪営業所を開設。
1972年
製造部門として「タイジ電機株式会社」を独立。
工場を横浜市神奈川区に移転。
1973年
営業部門として「タイジ産業株式会社」を独立。
1980年
本社新社屋を現在地に落成。 -
1985年~2013年
1985年
「タイジ電機株式会社」と「タイジ産業株式会社」を合併し、「タイジ株式会社」を発足。
1991年
横浜工場を川崎工場に移転。
1995年
大阪営業所を現在地に移転。
1999年
名古屋出張所を開設。
2013年
大阪営業所と名古屋出張所を統合し、西日本営業所を開設。
取材趣旨:企業インタビュー